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多摩美術大学美術館:いったんモノに立ち戻ってみよう(塚本健太)

東京西郊の立川駅からモノレールに乗って美術館を目指す。車窓からは、丘に這うようにして開発された住宅地、その間を橋やトンネルで縫うように走る道路やモノレール。こうした人工の構築物は自然と対比されることが多いが、こうしたものも、もとをたどれば自然素材に行きつくことに気づく。


そう、今回の展覧会は素材に注目して構成されている。普段の生活でも見ることができる「水・木・金・土」という「マテリアル=素材」との対話がテーマの一つでもある。今回訪れた多摩美術大学美術館は博物館実習でお世話になったことがあり、その時にこの美術館のコレクションの特徴について伺っていた。もともと大学の附属美術参考資料館として開館したという経緯があり、作品制作の資料として考古資料が多く収蔵されているのが特徴である。こうした考古資料と美術作品をどのようにコラボレーションして展示を企画していくのか、これが美術館としてのテーマでもあった。本展では、白石顕二・寺田小太郎・浜田晋によるコレクションなどと考古資料をマテリアルという観点から展示している。


ここでは、水・木・金・土からなる四つの展示室のうち、二つを紹介したい。一つ目が、「水」の展示室である。取り上げられた4つの素材の中で最もバリエーション豊かな表現がされるものであると感じた。杉浦非水による波の表情を描いた一枚・水の上や中から、たゆたう水を撮影した東野芳明の作品群・水面に映る姿を見とれる美少年ナルキッソスのブロンズ像などが展示されている。本物の水を使った作品は一つもないが、そこに水を感じる。なぜなら、確かに水は捉えどころの無いものではあるが、雨が降ってきたときに感じる匂い(ペトリコールというらしい)、反射してきらめく光といった、水が媒介して感じるものを作り手たちが表現しているからだろう。



もう一つが「土」の展示室である。縄文土器、遮光器土偶からマリの泥染め、現代の寒川典美や宮崎進の作品が展示される。様々にあらわされる水とは違い、土は色や形として私たちに迫ってくる。土自体の色をあまり変えない作品が多く、また手でこねて作った形跡がわかるからか、4つのマテリアルの中で最も時代や場所が多様であるにもかかわらず、作り手の動きが見えてくるような気がした。


私自身、今まで作品を見るときには、「技法」や「何が描かれ・作られているのか」といったことをよく注目していたが、この展示を通じて「何で描かれ・作られているのか」も重要なことだと気づいた。ここに着目することによって、時代ごとに作り手がどのようにそのマテリアルと付き合っているのかわかる。また、「何が描かれ・作られているのか」という表現の面についての共通性と差異を見ることができると実感した。



この展覧会のタイトルに入っていることば「そうぞう」は「創造」「想像」と複数の漢字を当てることができる。もともとは美大生の制作の源泉として収集され、今もその役割を担いつつも、美術館として様々な人々にも開いていく多摩美術大学美術館らしいタイトルだと思う。


謝辞:本展の執筆・見学にあたり、多摩美術大学美術館学芸員の渡辺真弓様にお世話になりました。この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。

※会場内の写真については、美術館に許可を取ったうえで筆者が撮影を行っています。

 

会場・会期

多摩美術大学美術館「そうぞうのマテリアル」展

2022年4月2日から9月4日 10:00-17:30

 

執筆者プロフィール

塚本健太

東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科に在籍。研究テーマは都市計画・都市解析。学芸員資格課程を受講中。政策科学は行政が行う政策を理論で支える学問ですが、しばしば数値化できない価値を低く見がちです。美術館などの文化系施設もその一つでしょう。効率化だけでは表すことのできない「場」としての価値を考えていきたいと思います。 伝統工芸学生アンバサダーとらくらとしても活動中。