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多摩美術大学美術館:キュレーションを読み解く(藤澤まりの)

 ミュージアムの学芸員は、何を考えて作品を配置するのだろう。


  それは普段、特に「目玉」となる作品目当てで美術展に足を運ぶ場合には、ついつい見逃してしまう点である。

 「そうぞうのマテリアル」展は、「水」「木」「金(金属)」「土」といった4つの素材(マテリアル)に着目したコレクション展であった。1展示室に1マテリアル。ここでは各部屋について、特に展示方法が印象に残ったものについて記述する。なお、「水」の部屋を担当した学芸員の渡辺さんからお話を伺いながらの見学だったので、私の感想だけでなくそちらの話題も織り交ぜたいと思う。

「水」の部屋からは東野芳明の作品群を取り上げる。「水」の部屋の一番奥には、東野芳明が撮った水中の写真が18点飾られている壁がある。



 東野芳明は水に関する論文をたくさん書いた評論家・カメラマンで、素潜りも得意だったそうだ。論文の内容は、水と皮膚・鏡・異世界など多岐にわたる。渡辺さんは、展示方法によって論文解釈を視覚的に表す・論文の世界観を再現しようと努めた。例えば、前期と後期で写真の配置を変えている。前期は「影」「鏡」「プール」などのシリーズ作品はある程度まとめて展示していたが、後期はあえてバラバラに配置し、水というマテリアル特有の境界の無さ・あいまいさを出すようにしたそうだ。

  この壁の前に立ったとき、足元を見ても上を見上げても水があり、水中にいるみたいな気持ちになった。ふつうはこんなに壁の上のほうとか下のほうまで使わないんですよ、とも教えてくださった。確かに私も学芸員養成課程の授業で、作品の中心が140~150cmくらいになるように壁に掛けるのが目安だと教わった。作品同士の間隔を狭くとって敷き詰めるように展示するという工夫もしており、水の中に入ったイメージを目指したそうだ。私が抱いた感想はキュレーターの狙い通りだった、というわけだ。


  「木」の部屋に入ってすぐの斎藤満栄「遊行柳(2013)」は、大きさも相まって非常に目を引く迫力ある作品だ。



  キャプションによれば、視点を変えながら鑑賞することで「ダイナミックな生命の躍動」を感じられるそうだ。それができるようにするために、この作品の目の前には畳が置かれている。「座って低い視点からも鑑賞してみてください」と添えられた指示通りにしてみると、実物の柳を見上げているようだった。なんだか涼しくなったような心地さえした。




 「金(金属)」では、船越保武《原の城》(1971年)と、15世紀・ビザンティンから発見されたイコン(聖母子像)の組み合わせがとても心に残った。《原の城》に隠すようにイコンを配置することで、時代も地域も全く違う2つの作品のあいだにストーリーをつくっている。《原の城》は島原の乱で戦った武者を題材にした作品であり、彼の背中には「いえすさま/さんたまりあ」の文字が刻まれている。その後ろに聖母子像。つまり討ち死にした彼は、背後に信仰を潜ませているのだ。





 作品どうしに見出した物語を展示方法で表現するというのは、美術館好きとしても歴史好きとしても非常に感動する演出であった。また、これはパンフレットを見るだけでは読むことができない物語であり、実際のミュージアムに足を運ぶことのよさも実感した。


 「土」の部屋には、たくさんの土の像たちが並んでいる。例えば9~16世紀のチャド、紀元前14世紀のギリシャなどから産出したものがある。



  こういった古代遺跡から産出された像は博物館でもよく見るが、時代も地域もバラバラの像たちが「土でできた像」というくくりで一堂に会することは、博物館ではあまりないように思う。渡辺さんは、作品とのコミュニケーションを行ったり、作り手個人に思いを馳せたりするのだと仰っていた。「この人はすごく上手な作り手だなあ」「こうやって作りたい気持ち、共感できるな」など。来館者の小学生には「お気に入りを見つけてください」と声をかけていた。私は大昔の像を見ると、年代や地域などついついデータ的な情報ばかりを考えてしまう。だがこの展示で数量的な分類に拠らずに並べられた像たちを見たことで、これからは作品自体や作者についてもよく考え、個々の作品をじっくり楽しんでみたいと思った。


 多摩美術大学美術館にはものづくりをする人に教育資材を提供するための資料館という側面もあるそうだ。だから大学関係者の作品だけでなく、古代の作品も所蔵されている。それらに新しいカテゴリーで新しい価値を生み出すのが、キュレーションの面白さなのだという。たしかに、歴史の博物館的な発想ではなかなかでてこないような組み合わせがたくさん見られた。どの部屋に入ってもワクワクして、美術展の新たな見方も提案してくれるものばかりであった。 渡辺さんから、「レビュー」とはキュレーターの意図を想像するもの、美術館の中だけで完結させない広がりを持ったもの、色んな視点から描かれ外とつながる役割を持つものであってほしいという願いを聞くことができた。ひとりの学芸員が一部屋を担当したというこの展示では、いままでにないくらい生々しくキュレーターの意図を感じ取ることができた。作品一つずつにのみ目が行ってしまうことが多かった私だが、これからは美術展を鑑賞するとき、レビューを書くときに、展示の作り手の姿も意識してみたいと思う。


※会場内の写真については、美術館に許可を取ったうえで筆者が撮影を行っています。

 

会場・会期

多摩美術大学美術館コレクション展 みつめる×かんがえる「そうぞうのマテリアル」

2022年4月2日から9月4日

 

執筆者プロフィール

藤澤まりの

都立大で社会人類学を専攻し、同時に学芸員養成課程・教職課程を履修しています。 これまでは地方に住んでいたこともあり大規模な企画展のみ見ることが多かったのですが、これからは「これぽーと」をきっかけに多くの常設展を見に行きたいと思っています