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大阪中之島美術館:新しい美術館の可能性を探る(白石佳奈子)


初めに

今年2月、堂島川を渡ってすぐに大阪中之島美術館(以下、中之島美術館)が開館した。大きくて黒い箱形の建物と緑あふれる庭園はいかにも近代的で、美術館への気持ちを昂らせる。中に入ると、真っ黒な建物とは裏腹に広い吹き抜けとパサージュが特徴的で、光に溢れ開放感に溢れている。展示室は交錯したエレベーターを登り、上の階から鑑賞していくスタイルだ。開館直後のHello!! Super Museum展(コレクション展)を訪れたのだが、雨の平日にもかかわらず多くの人で賑わっていた。


MoMA(ニューヨーク近代美術館、以下MoMA)みたいだ、展示や建物の雰囲気を見てそう感じた。だだっ広い吹き抜けに、パサージュや庭の存在、白と黒、色は違えど開放的な雰囲気、そして何よりデザイン部門にまで及ぶ豊富なコレクションは私にMoMAを彷彿とさせる。私は大学の学部時代に1年間ニューヨーク州に交換留学をしていた経験がある。昨年末にも旅行でニューヨークを訪れた。MoMAは斬新な企画展に加え、近現代のマスターピースを常設展でいつでも見ることができるお気に入りの美術館だ。


日本とアメリカ、大阪とニューヨーク、中之島美術館とMoMA。そもそも似せて作られたわけではないため、互いに異なるのは当たり前である。しかし、私が「なんとなく」似ているなと感じた部分を比べてみると、意外な共通点が見つかるかもしれない。以下では、コレクションの形成、近隣美術館との関係性、地域的特性の顕示の三つの視点から、両者の美術館を比較することで、中之島美術館の特徴を明らかにしてみたい。


1、コレクションの形成:近現代の芸術作品からデザインまでを網羅したコレクション

中之島美術館に関して、何より特筆すべきはコレクションの質と多さだろう。日本では珍しく、開館時から約6000点を超えるコレクションを所有している。美術館の構想から実際開館するまで40年という月日がかかってしまったが、それはコレクションを充実させることに重きを置いてきた結果とも言える。コレクションは19世紀後半から現代に至るまでの日本と海外の美術作品、またデザインと大阪に関わりのある美術作品を中心に形づくられている。


開館のオープニングを飾った「Hello!! Super Museum 超コレクション」展はそれらが三部構成で展示されていた。第一章では初期のコレクションと大阪にゆかりのある作品、第二章では近現代の、主に19世紀後半以降の世界的に有名な作品、そして第三章では近現代のデザイン・コレクションの展示。説明などなくとも一見しただけで、コレクションの収集方針が分かる展示であった。


佐伯祐三はじめ、ダリやマグリットなど名のある作者の有名作品が並んでおり、大阪でこんなものが観れるのかと感心した。美術作品だけでなく、バウハウスやアール・ヌーヴォーの

家具、ロートレックやクリムトから東京オリンピックのポスターまで、デザイン部門が美術

同様に充実しており、その点も注目を集めていた。



MoMAを観てみよう。MoMAは構想から開館までの期間が短いこともあり、コレクションや財源は豊富でなく、わずかな寄贈品を核にスタートした。1929年ニューヨークのミッドタウンにかつてまだ乏しかった近代美術館賞の機会創造を目的に設立され、絵画、彫刻だけでなく、建築、デザイン、写真、映像といった幅広い分野を扱った初の美術館として有名である。コレクションは19世紀半ば以降のものを扱っており、ヨーロッパの近代美術が中心となっている。しかし、第二次世界大戦以降にアメリカでの抽象表現主義が活発になってからはアメリカ美術も扱うようになった。現在は全部門合わせて約200,000点以上のコレクションを所有している。


美術館を訪れればいつでも企画展に加え、常設展で数々のマスターピースを目にすることができる。1階がロビーとチケットカウンターになっており、2階はメディアアートや特別展、3階は建築、デザインに加えドローイングや写真、4.5階では主に絵画や彫刻、そして6階では企画展を見ることができる。美術館の歴史に加え、展示面積がそもそも段違いだが、数々の名作と呼ばれる作品が揃っており、近代以降の芸術活動の流れを通史的に一通り網羅することができる。数々の傑作に触れられるだけでなく、様々なジャンルを相互的に鑑賞できるのも一つの魅力だろう。斬新な企画展も魅力的だが、常設展の質と量は他に類を見ない。


両館を比較するとコレクションの量や幅、通史性は異なるものの、どちらも美術館運営においてコレクションを核にしてきたと言えるだろう。また、中之島美術館のコレクションはこれまで3000点以上もの作品が海外に貸し出され、世界各地で展示されてきたという。コレクションは大阪だけに閉じているわけではないのだ。今後、一鑑賞者として、中之島美術館ならではのデザイン部門と、美術作品が同時に展示される企画があればいいなと思っている。



2、近隣美術館との関係性

中之島美術館の周りには国立国際美術館、大阪市立科学館、香雪美術館、東洋陶磁美術館、こども本の森など数々の文化施設が並ぶ。

大阪中之島美術館の収集方針は先ほど記した通りだが、隣接する国立国際美術館は1945年以降の欧米、日本の現代美術を収集しており、 近隣の文化施設との差別化も行われているようだ。中之島エリアは国内外からの来客を見据えて再開発の途中である。一施設で賄うには足りない分野も存在するが、近隣の文化施設との棲み分けがなされることで周辺地域一帯の活性化が見込まれる。中之島美術館は、そのコレクションと開放的な雰囲気で今後、中之島エリアで文化施設の中心的な役割を果たすことが期待されているに違いない。



MoMAの位置するニューヨーク、マンハッタンを見てみよう。ミッドタウンには、MoMAの他にも数多くの美術館が存在する。有名どころではメトロポリタン美術館や自然史博物館、ホイットニー美術館が挙げられる。メトロポリタン美術館は主に古典を扱っており博物館的役割も果たしている。自然史博物館は自然科学、博物学の標本や資料を、そしてホイットニー美術館はアメリカ美術を中心に扱っている。ニューヨークのマンハッタンは設立当初から近隣の文化施設との棲み分けが強く意識されている。どの施設も世界有数のコレクションを誇っており、一つの施設で特定の分野を十分に網羅することができるのが特徴である。


近隣文化施設の差別化は都市づくりの一環として行われる。MoMAの位置するニューヨークでは、設立の際に意図して文化施設の差別化が行われ、個性際立つ文化都市が作られてきた。中之島エリアはまだ開発途中だが、今後中之島美術館を筆頭にそれぞれの文化施設が共鳴しつつも独自性を持つ、文化的に多様な場所になり得るのだと思う。私は中之島美術館が、美術館という役割を超えて、一種の場所を提供することで観客の好奇心と想像力を刺激し、交流を生み出していく、そんな想像をしている。



3、地域性の顕示

そしてもう一つ注目したい点は地域に特化した展示である。中之島美術館は大阪生まれの佐伯祐三の作品を初め、中之島に戦後日本の芸術運動の一つである「具体美術協会」の活動拠点、グタイピナコテカが存在したことから大阪に関わりのある近現代の作品を収集、展示している。恥ずかしながら、筆者はこのコレクション展で大阪での具体芸術運動の展開を知った。やはり、日本美術が長い歴史で芸術の中心であった西欧と同じ土俵で戦うのは難しい。だからこそ日本において美術館が地域的特性を持つことは重要なのではないだろうか。中之島美術館が保有する大阪に関連するコレクションは、まだユーロセントリックな空気が漂う芸術界において、日本美術への誇りや可能性を感じさせることを十分にできる力を持っているのではないだろうか。



前章で、ホイットニー美術館がアメリカ美術を扱っていると述べたが、MoMAも芸術といえば西洋であった時代に、アメリカを芸術の中心に位置付けようと奮闘していた過去がある。ヨーロッパの有名作品を核にスタートしたMoMAだが、1950年代にアメリカの東海岸で抽象表現主義が台頭すると、これをいち早くコレクションの分野に加えたのである。この抽象表現主義の台頭はのちにアメリカが美術において世界的な評価を得るきっかけとなった。MoMAはアメリカの芸術振興に大きく貢献した美術館の一つだろう。


中之島美術館がかつて展開された芸術運動を現代の我々に整理して紹介している。それに対し、MoMAはその時代に繰り広げられた芸術運動をリアルタイムで美術館のコレクションに加えることで自国の芸術運動を価値づけたのが特徴的だ。中之島美術館では現在も大阪をテーマにした「みんなのまち 大阪の肖像(2)」展が行われている。新しい美術館が大阪に関する芸術を発信していくことで、大阪への理解を深めると共に、日本美術の持つ可能性を示してくれるのではないだろうか。


最後に

上記の比較点は中之島美術館とMoMAが互いを意識して作られたわけではないため、少し無理があるところもある。近代以降を扱う美術館として類似点はあるものの、日本の美術館にはやはり物足りなさを感じる点もある。しかしそんなことは分かりきっているだろう。日本と欧米ではそもそも文化や歴史だけでなく、芸術に対する態度が違う。日本では芸術振興は、経済政策の一環として行われることが多く、展覧会はイベント性が誇示され、芸術と日常の距離も西欧に比べて遠い印象がある。それに対し、欧米は芸術振興が文化政策として行われ、日常に芸術が組み込まれている場合が多い。近年、社会の芸術への興味が高まりつつある中でこのような流れは変わりつつあるがまだまだ動き始めたばかりだ。


中之島美術館は近年稀に見る大型美術館として開館した。先述したように、中之島美術館は多くの可能性を秘めていると思う。数多くの国内外の有名作品をはじめ、デザイン部門にまで及ぶコレクションは必見だ。また、大阪に関連した作品のコレクションも新たな発見に溢れている。中之島美術館を訪れた後に、関連のある近隣の文化施設を訪れてみるのも面白そうだ。中之島美術館が、現代の日本で新たな美術館として、どのようなアートシーンを創造していくのか、今後が楽しみである。


参考文献

・大阪中之島美術館 公式サイト(最終アクセス日:2022年8月14日)

https://nakka-art.jp/

・暮沢剛巳(2022).『ミュージアムの教科書 深化する博物館と美術館』.第4章.青弓社

・ニューヨーク近代美術館 公式サイト(最終アクセス日:2022年8月14日)

https://www.moma.org/

 

会場・会期

大阪中之島美術館 Hello!! Super Museum

2022年2月2日3月から3月21日まで

 

・執筆者プロフィール

白石佳奈子

兵庫県出身。2022年9月からUniversity of Westminster修士課程に進学予定。美術館や芸術祭巡りが趣味。