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東京オペラシティアートギャラリー:ライアン・ガンダーが提示する、コレクションの見せ方と見方(塚本健太)

 新宿から京王新線に乗って1駅、初台駅直結の東京オペラシティ。そのなかにあるアートギャラリーで興味深いコレクション展が行われた。


 東京オペラシティアートギャラリーのコレクションの特徴は、寺田小太郎という一人の人物によって構成されたプライベート・アイ・コレクションであることだ。東京オペラシティを含む開発事業に土地を提供し、また共同事業者としてこの美術館のために作品収集を開始したという。


 これらの作品をもとに今回キュレーションしたのが、現代美術作家のライアン・ガンダーであった。ただのコレクション展ではなく、「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」と付いているのは、彼のキュレーションの仕方がまた「作品」であったからだ。


 4階の展示室のテーマは「色を想像する」。

 コレクションの作品群から、黒や白を基調とした作品を並べ、鑑賞者それぞれがそこに描かれていない「色を想像する」という空間となっている。

まず、美術館での絵画作品の展示手法として見慣れないのが、サロンでの展示のように、壁一面に作品をぎっしりとつめていることだ。時代も作者もバラバラな作品が壁一面にかけられている光景は圧巻だ。さらに、キャプションは作品がかけられている反対側の壁に掲示されている。こうした工夫によって、鑑賞者は作品に集中したり、隣にかけられている作品と一緒に見てみたり、タイトルを予想してみたり、と自由に鑑賞することができる。


写真1:作品がかけられている反対側の壁には作品の大きさに合わせて四角くテープが引かれ、その中にキャプションが掲示されている。


 完全なモノクロ空間かと思いきや、相笠昌義《駅にて・昼も夜も……》のように色がついている作品もところどころあり、そうした作品の色が引き立って見えるから不思議である。


 3階の展示室のテーマは「ストーリーはいつも不完全……」。

 展示室の入り口でペンライトを取り、中に入ると展示室の中は薄闇が広がる。「探索」「注視」「視点」「パノラマ」「ヴィジョン」という5つのテーマに分けられ、展示されている作品一つ一つをペンライトで照らしながら鑑賞していくというスタイルになっている。


写真2:部屋の入り口にはテーマを表す掲示が


 この展示を見に行った時は、大学の友人と二人で見に行ったのだが、一人で照らすとき、二人で同じ作品を照らすとき、横に並んだ作品をそれぞれ照らすとき、毎回見え方が変わってくる。いろいろな角度から光を当てることによって、影がついたり、色味が変化したりする。作品を照らすという行為を行いながらーある意味、自分も展示の一部となってー鑑賞を行う体験は初めてだった。


 振り返ってみると、今回の展示は三つの点で斬新だったと言えよう。


 一つ目は、コレクションを展示しながらも、見方・見せ方という点で鑑賞者、そして作品を展示する美術館側に新しい視点を提示したという点である。ガンダーが展覧会に寄せた言葉によれば、人間の持つ「まったく同じものを何通りもの方法で理解する力」を許容すれば「お定まりの状況を変え、ひととき視点を変えること」ができるのだ。

 

 二つ目は、「ストーリーはいつも不完全……」において、作品を展示するうえで重要な要素となる「照明」の部分を鑑賞者に委ねた点である。彫刻作品であれば影絵のようにして照らしたり、絵画作品であれば、作品の中で明るく描かれているー光源に近い部分ーから照らしたり。今までの展示では、「展示する」美術館側にしかできなかったことが、鑑賞者自身でできるようになった。こうした工夫によって鑑賞者はより主体的に作品を見ることができたように思う。


 三つ目は、ガンダーがリモートで本展のキュレーションを行ったことだ。コロナ禍において、横浜トリエンナーレでは日本に来られないアーティストがリモートで作品の展示を行うという事例があった。ただ、アーティスト自身の作品ではない、美術館のコレクションをリモートでキュレーションするというのは初めてのように思う。

しかしながら、リモートでキュレーションすることへの課題もいくつか見られた。その一つに展示室の「終わりの空間」の使い方がある。鑑賞者は4階の展示を見た後、「Project N」の展示が行われているコリドールに向かうが、その展示室と展示室の間の空間がいつもよりも間延びしているように見えた。また、3階の展示も唐突に展示が終わっており、ついつい他の作品がまだ先にあるのでは、とライトで回りを照らして探した。このように、展示室と展示室のつなぎや終わりの余韻といった点にリモートでキュレーションすることのむずかしさがあると感じた。


 しかしながら、今回の展覧会をきっかけに、様々な美術館の常設展やコレクション展がその美術館の学芸員だけによってキュレーションされるのではなく、多様な人々によってキュレーションされる機会が増えてほしいと思う。そうすることによって、一館の学芸員だけでは気づかなかった、コレクションの新たな見せ方に巡り合えるようになるだろうから。

会場・会期

東京オペラシティ アートギャラリー

「ストーリーはいつも不完全……」「色を想像する」ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品

2021年4月17日から6月24日まで(会期終了)

・執筆者プロフィール

塚本健太

都立大で政策科学を学びながら、学芸員資格課程を受講中。政策科学は行政が行う政策を理論で支える学問ですが、しばしば数値化できない価値を低く見がちです。美術館などの文化系施設もその一つです。効率化だけでは表すことのできない「場」としての価値を考えていきたいと思います。