top of page
執筆者の写真これぽーと

武蔵野美術大学美術館:「見えないもの」を具体的な形に見立てる「いのり」の造形美(おおもりひろこ)


 武蔵野美術大学民俗資料室では、9万点もの民具の収蔵資料があり、今回そのコレクションの中から編集した書籍「民具のデザイン図鑑」をもとにした展覧会が開催されています。


 民具とは当時の人々の生活のためにつくられたもの。使う人の身体の大きさや能力に対して適しているものを、機能性を重視しながら生み出されてきました。藁や竹など自然の素材を利用したものも多く、壊れたら都度手直ししながら使い続けたのだと思います。

 民具は、必要に迫られて生み出された「昔の道具」ですが、少しも古めかしさやおざなりな仕事を感じさせません。ムダのない、新鮮な面白さと熟練の美しさに、尊敬の想いと驚きを感じながら、じっくりと鑑賞してきました。

 

 展示のコンセプトとしては以下の三つの視点が設定されていました。


①日常的な労働や身の丈に合った生活に即した造形

②デフォルメされた造形が意味を生み出し、共有する造形

③自然に宿る精霊や神仏を表現し、その霊性を暗示する造形

この中でわたしは③の内容に当てはまる展示物が特に興味深く、次の3つの造形について思索を深めてみたいと考えました。

 

「熊手」と「ながし雛」と「エビス像」です。

 

 「熊手」は福箕、福杷、かっこめともいい、恵比寿大黒面や鶴亀、松竹梅、小判などあらゆる縁起物を装飾し、来年の五穀豊穣、商売繁盛、家内安全などを願って室内に祀ります。これでもかとあふれんばかりに詰め込まれためでたきものがひしめきあい、けして上品ではない色合いが欲深さをものがたっているようでもあり、いやいや強欲さを笑い飛ばしてくれているのだとも思え、その「欲張りさ」を微笑ましくすら思えてまいります。 

 「流し雛」は日本の各地で行われていた行事で、この展覧会で展示されていたもの(下記写真)は鳥取県のものだそうです。

 3月3日の桃の節句といえばお雛様を飾ることを思い浮かべますが、本来は自分の穢れを移した人形を身代わりとして水に流し、穢れ落としをする日だったそうです。

 3月は農作業にとっての大事な節目であり、心身を浄め慎んで暮らす季節。苗が良く育ち良く実るようにと願いながら、田の神様を迎える準備をするために、禊の意味をこめて人形流しをしました。菱餅や桃の花、ひなあられとともに載せて川に流すこともあり、また、安産や子授け、女性の病を癒すことを願って流す地方もありました。平安時代には天皇の災いを負わせた人形を「七瀬の祓」といって七か所の河海の岸で流すこともあったとか。かわいらしい雛の人形を包み込んだ藁の入れ物も素朴で、これがいくつも水面に浮かびながら流れていく様をみてみたいなと思うのでした。

 毎年我が家では元旦に七福神巡りに行くのですが、にこやかに笑う神様はどなたも皆幸せを運んできてくれそうで、そんな神様が7人もいるという設定に御利益三昧なありがたさを感じています。なかでも、大きな鯛をつりあげていて、笑顔がかわいらしいイメージのエビス様は、7人の神様の中でもより幸運をもたらしてくれるのではないかと期待を抱いてしまう存在。七福神の中で唯一日本独自の民俗神なのだということも初めて知りました。

 今回の展示でもいろいろなエビス様がいらして、皆魚の鯛とともにおだやかな笑みをたたえていらっしゃいます。古くから漁業の神でしたが田の神としても商業の神としても崇められ、いまもなお広く人々に愛され続けています。

 今回の展示の中ではこの写真のエビス様が一番のお気に入りです。玄関などにちょっと飾っておきたくなります。

 現代よりも不便なことも多かったであろう暮らしの中で、様々な民具は生み出されていきました。一つのものを造るためにはたくさんの時間をかけなければならず、効率的とは言えなかったと思われますが、ゆっくりと流れる時間を経て出来上がった民具を身に着けたり使用した時の心に広がる満足感は何事にも代えがたかったのではないでしょうか。


 本展では目に見えない「運」や「福」を引き寄せたいという願いを様々な「いのり」という表現でみせてくれた民具をとおして、造形の枠を超えた、呪具としての霊性を感じ、身の引き締まる思いを感じました。


 今回ご紹介した作品のほかにも興味深い作品はまだまだあり、12月には後期の展示も始まります。また足を運びたいと思っています。

 また、この展覧会はこの会場の展示の後、巡回する予定だそうです。



*写真は撮影ならびにSNS掲載許可を許諾のうえ掲載。執筆させていただきました。

 

。会場・会期

武蔵野美術大学 美術館・図書館 民俗資料室 ギャラリー展示「民具のデザイン図鑑」

前期:2022年10月24日から11月20日まで 

後期:2022年12月5日から12月24日まで

11時から19時(土日祝は10時から17時) 休室日=水曜日

入場料無料

 

執筆者プロフィール

おおもりひろこ

1969年生まれ。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業。広告業の作成経験有。美術書籍新刊本古本ともにアルバイト経験あり。

自然の美しさやクリエイティブの面白さに感動しながらアートの世界をもっともっとたくさん感じて勉強していきたいです。kuukai5959@gmail.com







Commentaires


bottom of page