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  • 執筆者の写真これぽーと

第3回 ミュージアムグッズへの道:前編(大澤夏美・南島興)

南島 こんにちは。今年に入ってからのご活動はいかがですか。


大澤 1月末に、千葉市美術館で中高生たちとミュージアムグッズを企画するワークショップをやりました。それがとても刺激的で面白かったんです。


南島 ツイッターで見ましたけど、娘さんと一緒に千葉に来られてましたよね。一日で企画から発表までをやるんですか?


大澤 そうです。みっちり6時間くらいをかけて開催しました。最初40分くらいは私の活動やミュージアムグッズとは何かという話、あとおすすめのグッズのレクチャーをしたり、千葉市美術館のミュージアムショップを運営していらっしゃるのが現役のデザイナーさんで、その方からデザイン面の裏話もしていただきました。その後、館内をチームに分かれて探検して、美術館のどのような魅力を活かしたグッズを作ろうか、残りの時間で考えてもらうワークショップにしました。

南島 じゃあ実際に展示室で作品も見てって感じなんですね。


大澤 そう。建築チーム、常設展チーム、図書室チームなどに一応分けてはみたんですけれど、それに捉われなくてもいいよとはお話しして。すごく皆さん真剣に取り組んでくれて。


南島 なるほど。


大澤 やっぱり参加してくれた方の子供たちも元々、地域の美術部の子がちょっと多くて、あとはデザイナーを目指しているっていう高校生の子も来てくれたり、恐竜が好きで全国の恐竜博物館に行っている子や、現代アート大好きです!という結構ガチめの子も来てくれました。博物館が物を通じて研究をして、その成果を発表する場所なんだというのをスムーズに理解してくれる方々で、それを踏まえてミュージアムグッズを考えてみてくれる子が多かったので、その意欲に救われたこともあって、とっても面白かったですね。


南島 実際に出てきたアイデアも面白かったですか。


大澤 面白かったし、やっぱり自分たちが考える博物館の財産って何だろうみたいなものを、自分事で考えてくれて。それがめちゃめちゃ有難いし、そういう活動を私はもっとしたいかもって、刺激になりました。


南島 自分が調べるところから始まって、企画をみんなに実際にやってもらうことで、美術館の教育普及活動の一環になりますよね


大澤 そうなんですよ。第2回の「ミュージアムグッズへの道」で話した事に近いかもしれないんですけど、どうしても教育って一方的に伝えるだけになりやすいじゃないですか。そうじゃなくて、どうしたら自分事にしてもらえるかなとか、自発的に何か博物館で掴もうとしてくれるかなあっていうのを考えたときに、ミュージアムグッズはフックになりやすいなあとすごく感じましたね。


南島 思うに、大澤さん自身も美術館の人じゃないという点で、やれることの自由度があると思うんですよね。


大澤 そうですね。


南島 外から美術館にやってきて、面白いことをして、そこに集まった人も一緒に何かやってもらうこと。それを、美術館の中の教育普及の人とか、学芸員とかがやるとなると、「教える・学ぶ」になっちゃう。基本的には学校と同じですね。先生が色々やろうとしても、学校の先生だからってところがあって、生徒の側も意識としてもあると思います。けれど、課外授業で外の人が来てやると急に学生の目が輝いたりするんじゃないですか。


大澤 確かに。こういう人も居るんだ!みたいな。


南島 社会科見学みたいな。大澤さんの存在って、社会科見学に行く先の人や物を内側にぶち込んでいくみたいな感じですよね。美術に対してこういう働きかけをしている、仕事として取り組んでいる人がいて、ミュージアムグッズを調べていて、自分で開発もしたりしているんですよ、という。そうすると学生とかそこに集まった人たちのモチベーションというか、意識も変わってくる。大澤さんが中の人ではないということは、参加者にとっても身近な存在かもしれないと思ってくれますよね。


大澤 そうかもしれない。第2回の「ミュージアムグッズへの道」の話で中間層に引き上げる話もしたじゃないですか。消費とか欲望とかをきっかけにミュージアムを自分事にする。ミュージアムグッズを考えることによって、自分が博物館の何を面白いと思ってるんだろうとか、どうやったら知ってもらえるだろうとか、どうやったらみんなに参加してもらえるだろうと考えること自体が、中間者への引き上げに繋がるかもなと思いました。


南島 美術館の中の人が想定しているような使い方とは違う使い方を美術館や博物館に来る人はしていると思うんです。別の楽しみ方と言ってもいいですね。


大澤 あるある。


南島 それはやっぱり外の人だからこそ気付きですし、ミュージアムグッズもそのひとつなのかもしれません。もちろん中の人も意識してはいるけれども、展覧会などに訪れる人たちの方がミュージアムグッズの良さとか親しみを、例えばぼくが想像するよりも感じているはずです。だから大澤さんの本なり活動が受け取られやすかったりするような気がしますね。


大澤 そうかも。それはあるかもしれない。最近も取材で、色々な博物館のミュージアムグッズをテーマにインタビューをしたんですけど、ある博物館の方は、古墳とか、縄文とか、土器とかをテーマに物作りをする作家さん、グッズ作りをする作家さんっていらっしゃるじゃないですか。


南島 うん、いらっしゃいますね。


大澤 その方が例えば博物館に行くと、発掘の時の図面が凄い格好いいからバンダナにしたいとか、研究者が描いた石刃の実測図がまず格好良いみたいな。物作りの目線で、これがすごく良いとか、格好良いとか、クリエイティブな目線で博物館を見るって言うのにビックリしたらしくて。こういう博物館利用があるんだという意味で感動したんだよねというお話をしてくれて。それだって博物館利用だよねというお話を聞いて、なんかそういう博物館を見る外部の目線って実は重要なんだよねという話をしていて。今の話につながる部分だなとちょっと思い出しました。


南島 多分、美術館や博物館の人が「これはクリエイティブではない」と思っている物が、ある別の専門家からするとクリエイティブな物に見えたりすることがたくさんあるのでしょうね。「このスケッチめっちゃ格好いいですよ」とか、「これは結構貴重なものですよ」とか、「これはお子さんには結構受けますよ」とかね。でも意外と美術館や博物館の中の人ほど、割とそういう線引きを結構はっきりしてしまっている所もあると思うんです。


大澤 なるほどね。


南島 これは見せるもので、これは見せないものとか。うちの目玉の作品は毎回出すけど、例えば関連資料とか、それにはメモとかゴミに近いものもあるのかもしれないけど、そういうものは基本的に収蔵はずっとされているけど、展示にはほとんど出ていない。そういう線引きによる格差はどうしても出てしまうものです。あとは作品の状態が良好ではない場合ですね。


大澤 あるある。


南島 もちろんコレクションって、基本的にはどの美術館も展示活用するためにコレクションしているわけなので、公平に展示されるべきなんですよね。


大澤 なるほどなるほど。


南島 ただ中の人にとってのロジックとして、どうしても陰と陽ができると言うか、日の当たる作品と日の当たらない作品がある。ただ、重要なのはその日の当たる・当たらないって言うのは、いろいろ事情はあるにしても、最終的には美術館の学芸員の基準から決まっているものです。でも、まったく別の専門性をもった人からすると、日の当たっていない作品のほうに可能性が見出されるかもしれない。それこそミュージアムグッズの愛好家の人とかから見たら、「この10年で1回も展示されていないこの資料、めっちゃグッズ化したいんですけど!」ということだってあり得ますよね。基本的に今、コレクションのミュージアムグッズって、その展示空間に出ている物をグッズ化することに基本的はなっているんだと思うんですけど。


大澤 うんうん。


南島 だけど一番面白いのは、収蔵庫の中で眠っているコレクション達の方にスポットライトが当たったりすると、ミュージアムグッズを作る側の選択肢は100倍ぐらいになりますよね。


大澤 おっしゃる通り。それこそ、グッズになる作品、ならない作品の違いって何? みたいな。よく、「うちのミュージアムは目玉が無いからグッズ作りにくいのよね」みたいな話もすごく聞くんですよ。そんなことはないよと思うんですよね。


南島 展覧会として成立させるためにそれなりに名物的な作品が選ばれやすい。だから、その基準からすれば、後回しになってしまう作品は現実としてある。けれど、それは要するに展覧会と言う枠組みで考えたら、という前提の話なので、ミュージアムグッズになるかならないかっていう判断はまた別だと思うんですね。


大澤 思う思う。めっちゃ思う。


南島 保存の状態から状態からしばらく展示されていないから、ほとんどの人が見たことのないけど、めちゃくちゃ格好良いのでミュージアムグッズ化しました!だったらすごい注目が集まるはずです。まだまだ活用しきれないけれど、興味深いコレクションはたくさんあるので、それらを収蔵庫に探しに行くミュージアムグッズ探検隊...。


大澤 めっちゃ面白い。そういうことをやりたいですね。展示する際のコストとかも考えて、皆さん収蔵するかや展示するかしないかみたいなのを決めてらっしゃると思うんですけども、グッズ化となるとまた別なプロセスを踏んだり、別のやり方で来館者の方の頭の中や心の中に スッと入り込んでくるものなので。それって教育でもあると思うし。


南島 今は基本的に展覧会に出ている、みんなが知っている作品をグッズ化するのがメインだと思うんです。それはみんなが知っているから買いやすいからだと思うんですけど、要は展覧会を作るロジックにミュージアムグッズを作るロジックを重ね合わせているんですよね。でもそれだけではないロジックでミュージアムグッズが作れるはず。


大澤 確かに。どうしても企画展のミュージアムグッズは注目されがちだけど、それもやっぱり展覧会に付随するからなんですよね。


南島 そうですね。


大澤 展覧会に付随するグッズだから一時しか買えないし、もどかしさも感じるところでもあって。博物館があって、展覧会があって、ミュージアムグッズがあって…という、一本の道しかなくて、それがもったないないと思いますね。


南島 基本的に企画展の予算の中にミュージアムグッズが入っているからですし、逆にそういう枠組みでしかミュージアムグッズを開発する予算が取れないのかもしれない。それは別の予算の取り方ができれば、さっき言ったような展示されていないコレクションのグッズもできなくはないとは思いますけど、そこまでのモチベーションはあるかどうか。


大澤 そうですね、それができたら良いなと思っています。

(後編「博物館法改正から考えるミュージアムの未来」に続きます)

 

・執筆者プロフィール

大澤夏美 北海道の大学でメディアデザインについて学ぶものの、卒業研究で博物館学に興味を持ち、元来の雑貨好きも講じて卒論はミュージアムグッズをテーマにしました。大学院でも博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究。現在も全国各地のミュージアムグッズを追い求めています。 南島興 1994年生まれ。東京藝術大学美術研究科博士課程在籍。20世紀美術史を研究。旅行誌を擬態する批評誌「ロカスト」編集部。ウェブ版美術手帖、アートコレクターズ、文春オンラインなどに寄稿。全国の美術館常設展レビュー企画「これぽーと」代表。



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