これぽーとを主宰している南島です。来週で、これぽーとを始めてちょうど一年経つことに驚きとともに、なにか企画をしたいなと考えている、今日この頃。みなさんは、いかがお過ごしでしょうか。今週は、レビューの使い方会議の第6回目です。以下、説明に続いて、本文になります。
突然ですが、前から少し疑問だったことがあります。毎月のように展覧会が開かれて、それに対するレビューがさまざまなメディアで公開されている。けれど、展覧会が終わったあとのレビューや、一度読まれた後のレビューはどこへと行ってしまうのか。書籍であれば、何度も読み直されることや本棚にしまっておいて、その時々で読み返されるということがありますが、展覧会のレビューで、それもネット公開のものは、なかなかそうはなりにくいと思います。どうしても一回の使い切り感が否めません。
これはもったいないことだなと前から思っていました。本来、レビューは展覧会が終わったあとやその展覧会の存在すらも忘れられたあとにこそ、それがどんな展覧会であったのかを記録した資料として重要な意味を帯びてくるはずだからです。
こういった問題意識からこれぽーとでは断続的に、南島がこれまで公開されたレビューを僕なりに紹介していくことにしました。題して「レビューの使い方会議」。試しにではありますが、この場でレビューの「使い方」をいろいろ見つけ出していきます。レビューを書いていただいたみなさんのためにも、読んでいただける方々のためにも、主宰者である自分には、それを発見していく責務があると思っています。
第6回目となる今回は、2020年9月に公開されたアーティゾン美術館と宇都宮美術館のレビュー記事をご紹介いたします。
美術館はあるときに創設され、美術館にはその創設者の思いが込められています。だから、あらゆる美術館は同じスタートラインに立って、その歩みを始めたわけではないし、今日までコレクションしてきた作品の方向性も少しずつ異なります。建物も内装も似ているものはあっても、同じものは二つとしてない。頭で考えてみれば、当たり前のことですが、案外このことは忘れられがちと思います。それぞれの美術館には創設時の理念があり、それがいまの美術館の形をつくっていること。それは美術館に来場する方々だけでなく、ときに美術館の側の人たちにとってもあてはまることでしょう。一体、この美術館は誰のどんな思いからはじまったのか?普段はあまり考えることのない、こうした問い掛けの絶好の機会となるのが、たとえば、美術館がリニューアルするタイミングだったりします。ちょうど、2020年に名称の一新ととともにリニューアルオープンしたアーティゾン美術館(旧ブリジストン美術館)について、レビューした中田紗椰さんの「アーティゾン美術館:進化し続けるDNA~石橋コレクションとその挑戦~」は、その分かりやすい例に挙げられます。中田さんによれば、「青木や藤島などの洋画家たちの作品と、彼らがお手本としたフランスの画家たちの作品を一緒に並べたら光彩を放つだろう」という創業者の石橋正二郎の思いをもとに、日本と西洋美術をつなげる展示手法は取り入れつつ、現代作家と当館のコレクションをコラボレーションさせる企画を始めることで、石橋の意志を新しい形で引き継いでいく姿勢が見られます。美術館が新しくなるとき、創設時の思いが新しい形で復興するのです。美術館の個性を知る上でも、ぜひその一例となるアーティゾン美術館レビューをお読みください。
みなさんは展示室の壁の色を気にしたことはありますか?おそらく、相当建築にこだわりのある美術館、たとえば、旧朝香宮邸だった東京都庭園美術館のような場所を除けば、多くの方が壁の色なんて気にも留めたことがないと思います。それは正しい反応です。なぜなら、美術作品によく集中できる環境にするために、ほとんどの美術館の壁は基本的に白一色で統一されているからです。前述したように、建築自体がひとつの見るべき対象であるような美術館の場合は別ですが、壁の色に目がいってしまう美術館は、作品に集中しづらい環境だとも言えます。しらたまさんの執筆した「宇都宮美術館:リズミカルさと藍色の魅力」は、後半部でその壁の色を逆に利用することで、展示作品の新しい要素に鑑賞者の注意を向けさせようとする工夫について書かれています。具体的には、タイトルにもある通り、「藍色」がある壁面の色に配されることで、ルネ・マグリットの絵画の見え方やそれまでの章立てのなかで出されていたキーワードに対する感じ方も変わってきたと、しらたまさんは書かれています。美術館の壁にあえて意識を向けてみると、これまでとはまた異なる美術作品の楽しみ方が見つかるかもしれません。ぜひ、お読みください。
・執筆者プロフィール
南島興
1994年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了(西洋美術史)。これぽーと主宰。美術手帖、アートコレクターズ、文春オンラインなどに寄稿。旅する批評誌「LOCUST」編集部。https://twitter.com/muik99
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