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兵庫県立美術館:みくらべることでみえてくるもの(松丸育美)


兵庫県は神戸市に位置し、JR灘駅から徒歩10分ほどの海に面した美術館。日本を代表する建築家、安藤忠雄による設計のすっきりとした印象のエントランス、見上げると、フロレンティン・ホフマンのデザインした「美かえる」が顔をのぞかせている。この、美しくもユーモアあふれる兵庫県立美術館(以下、県美)では、今夏までコレクション展が開催されている。その全体は特集展示、近現代の版画、近現代の彫刻、小磯良平記念室、金山平三記念室と、5つのセクションに分かれているが、今回は特集テーマである「同級生・同窓生」に着目して、レビューしていきたい。


 ところで、皆さんは美術作品を鑑賞する時にどの情報を重視するだろうか。作家、時代、地域、題材、東洋美術か西洋美術か、油画か彫刻かそれともインスタレーションなのか……。人により様々な選択肢があるなかでも、本特集「同級生・同窓生」は、「出品歴」から作品を見ていこうという試みである。いまも東京の国立新美術館で大規模な展覧会を開く日展や二科会などの美術団体が活発に活動しているが、戦前の日本の画壇はとくに、美術団体に所属し、そこに作品を出品することによって広く画家として世間に知られていくのが一般的であった。本特集では同じ回、同じ展覧会に出品されていた作品を県美のコレクションから選び出し、再び同じ展示室内に巡り合わせている。


 とはいえ、県美が発行する情報誌『ART RAMBLE』70号によれば、1960年代まではそういった出品歴が追えるものの、それ以降は『「美術団体に所属」という概念すらある種前時代的なものに』なってしまうため、本特集はおおよそ60年代までの作品となっている。


 はじまりは、兵庫を代表する画家、金山平三と小磯良平の油画、そして中山岩太の写真作品である。彼らには東京美術学校の卒業生であるという共通点がある。


 第1章「同級生・同窓生ー同じ釜の飯を食う」では、文展、帝展、独立美術協会、二科会、行動美術協会の5つの団体の展覧会から展示作品が選定されている。これらの作品には、伝統的な絵画であるという印象をうける。西洋の美術動向を学び、それを手本とした作風の作品が集まっているのだ。第12回文展出品作品の白瀧幾之助《某氏の像》、金山平三《さびれたる寛城子》、斎藤与里《春》の3作品は特にその傾向が顕著で、それぞれ伝統的な肖像画の技法を用いている白瀧、印象派の描く風景画のタッチに近い金山、アカデミスムやルノワールの裸婦画を東洋人で表現した斎藤と、見事に分かれている。特に渡欧歴のある金山平三と新井完は西洋の影響が色濃く、抑えた色味が魅力的な金山平三はバルビゾン派を、鮮やかで軽いタッチが魅力の新井完派印象派を、彷彿とさせる。独立美術協会、行動美術協会、二科会などはこうした帝展や文展といった、当時の政府組織が開催していた官展に対抗し発生した団体であるが、戦後に入るまでは具象画がほとんどを占め、後半になってやっと津高和一の抽象画が登場する。


 第2章「同級生ースター、誕生⁉︎」では、美術団体主催以外の展覧会で同時に出品された作品を紹介している。特に戦後の展覧会は「第5回サンパウロ・ビエンナーレ」や「第31回ヴェネツィア・ビエンナーレ」等、海外に広く日本の美術作家を知ってもらう機会になるようなものが多く、その出展作家たちは「日本を代表する」という意味で、スターであった。西洋に学んでいた前章とは異なり、この章の作品は西洋の動向と離れて独自の表現を見つけようと模索した痕跡がある。特筆すべきは白髪一雄の《天満星美髯公》である。これは第4回現代日本美術展に斎藤義重や津高和一の作品とともに出品されたものだ。この作品も白髪一雄の特徴である勢いが見て取れ、絵の具の流れと盛り上がりに圧倒される。ご存知の通り、白髪は作品を足で描いていた。天井から吊るしたロープに捕まり裸足で絵の具を広げて描く「フット・ペインティング」という手法は海外でも高く評価され、近年はオークションでの価格も高騰している。兵庫県出身の白髪は、紛れもなく地元のスターといえるだろう。


 さて、特集展示の後は県美が収集の柱としている近代版画のゾーンである。本展ではマックス・エルンストとジョアン・ミロの作品が並べて展示してある。エルンストの細密だがどこか不穏な版画とミロの妖精を思わせる簡略化された人体は、対で見ていると存在するものとしないものの二項対立のようにも見えて来る。どちらも同年代にシュルレアリスムに傾倒した作家であるため、同時に見ることによって一層お互いの個性が引き立つようだ。けれども、展示室を進むにつれて、エルンストの版画の人体の方も徐々に溶けてゆく。そうして、最終的にはエルンストとミロの版画は見分けがつかなくなる。


 エルンストとミロの共演を見た後は、立体作品の展示室へ。この展示室はガラス張りになっており、美術館エントランスへと向かう道でもあるので、外を歩く人々が見える。それと呼応するように置かれているのが、ジョージ・シーガルの《ラッシュ・アワー》である。先を急ぐ人々は足を踏み出しているものの、石膏像であるがゆえに動くことはない。オーギュスト・ロダンの人体も、佐藤忠良の人体も、ここでは動くことはない。ガラス1枚隔てて動かない人体と動く人体が同じ美術館という舞台の上で共演しているかのようだ。


 1階の展示室を出て、2階に上がると最後のセクション、兵庫ゆかりの画家である小磯良平記念室と金山平三記念室にたどり着く。小磯も金山も特集展示で作品が展示されていたが、ここでは彼らの作品の別の側面を見ることができる。小磯良平記念室に展示されている《少女と猫》は少女が猫を抱いている作品であり、少女は猫の方を向いているので表情が読み取れない。しかし、猫は気持ちよさそうに少女の腕の中で丸まっていることから、少女と猫の信頼関係が読み取れそうだ。小磯は女性像を得意とする画家であり、特集展示にも女性像が出品されていたが、記念室に展示されている作品を見ると、彼の興味は人物画を通した心情表現にあったのではないかと思える。


 金山平三記念室では、彼の風景画を堪能できる。特集展示に出品されていた《さびれたる寛城子》に比べて、より細かな表現になっている。とりわけ《大石田の最上川》は冬の最上川を描いた作品で、水面のグラデーションが精緻に表現されている。人物に注視した小磯とは対照的に、金山の興味は風景、もっと言えば水の反射にあるように思う。《雨のプラス・ピガール》では人の姿は曖昧なタッチで描かれており、雨によって揺らぐ街灯や車の姿が強調して描かれている。同じ兵庫に生を受け、同時代を生きた画家でありながら、全く違う作風の二人の作品を同時に見られるのは贅沢な空間である。


 以上が、兵庫県立美術館2021年度コレクション展Ⅰ のレビューである。本展覧会は7月4日(日)まで開催されており、更に4月24日からは「小企画 穎川コレクション 梅舒適コレクション 受贈記念展」も合わせて開催される。また、企画展示は兵庫在住のファッションデザイナーであるコシノヒロコの大規模展「コシノヒロコ展 EX・VISION TO THE FUTURE 未来へ」を6月20日(日)まで開催中だ。


 展示を見た後は、ぜひ螺旋階段を上り海のデッキで神戸の港を見て、海と山に挟まれた県美を心ゆくまで体感してほしい。 

会場・会期

兵庫県立美術館 コレクション展Ⅰ

2021年2月13日から7月4日まで

*緊急事態宣言の発令に伴い、4月25日(日)から5月11日(火)まで臨時休館中

・執筆者

松丸 育美(まつまる いくみ)

東京都出身神戸在住。武蔵野美術大学卒、神戸大学大学院在学。専門は20世紀前半のイタリアにおける芸術とファッション。好きな画家はボッティチェリ、趣味はフィルムカメラ。無類の猫好き。