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執筆者の写真これぽーと

東京都庭園美術館:あなたの家になるように(Kuboleine)

 美術館って、どんなところだろうか。

 そこには作品以外掛けることを許さないような無地の壁と、均等に並べられた作品たち。付された順路に沿って、淡々と作品たちを眺めていく。美術館ってわたしにとってはそんなイメージだが、なんだかここだけはちょっと違うなと思う美術館が白金台にある。


 東京都庭園美術館。親しみを込めてみんなからは「テイビ」なんて呼ばれている美術館で、アール・デコの館として名を馳せている。目の前には首都高が横たわり、とめどなく車が走ってゆく。なんとも都会的な立地だが、一歩門をくぐるとそんな都会の喧騒はどこへやら、本館である旧朝香宮邸が出迎えてくれる。


 朝香宮邸は朝香宮邸は1933年に、香淳皇后の叔父にあたる朝香宮鳩彦王一家の住居として建てられた。1947年に皇籍離脱により朝香宮家が退去したあとは、吉田茂によって外務大臣公邸として、その後はホテルやオフィスとして使われた。1983年に都立美術館として公開され今に至るが、美術館としては随分稀有な道を歩んできた建物だ。


 そんな朝香宮邸の魅力といえば「アール・デコ」。フランス滞在中に奥様とこのうつくしい装飾様式に出会い、日本に持ち帰ったのだそう。ルネ・ラリックやアンリ・ラパンといった当時を代表するアール・デコのデザイナーがこの邸宅を彩るために力を貸し、宮内省内匠寮の建築家・権藤要吉が基本設計と内装を担当した、いわば和洋の想いが融合した建物なのである。


 華やかで、目移りしてしまう多彩な装飾の中でも特に目を引くのが、次間に凛と佇む「香水塔」だ。大客室と大広間へのつなぎの役割を担っているこの場所は、朝香宮邸のシンボルといえるだろう。


 次間の中心に置かれた香水塔は、アンリ・ラパンが1932(昭和7)年にデザインし、国立セーヴル製陶所で製作されたもの。朝香宮邸時代に上部の照明部分に香水を施し、照明の熱で香りを漂わせたという由来から、後に「香水塔」と呼ばれるようになった。フランスから遥々海を越えてやってきた貴婦人のような佇まいだが、それは派手すぎることもなくしっかりと部屋に収まっている。このバランスの良さはどこから醸し出されるものなのだろう。


 次間に足を踏み入れてみると、その理由がよくわかる。

 次間の天井は白漆喰の半円球のドーム型になっており、香水塔の台座や部屋の柱には漆が塗られている。真っ白な天井と、黒く輝く漆は、ともすれば装飾過多になってしまう空間をしっかりと引き締めている役割を担っているのだ。


 アール・デコの華やかさと、日本の伝統技巧。一見相容れなさそうなふたつが、この部屋には美しく、均衡のとれた状態で共存している。一歩間違えれば、この部屋の美しさの均衡を崩してしまいかねないアンバランスさ。このあやうい美しさこそが、朝香宮邸が美術館として活かされている理由なのではないだろうか。


 これまでたくさんの作品たちが朝香宮邸を訪れてきた。

 ドレス、絵画、七宝、コラージュ、現代アート。生まれた場所も作品形態も様々だが、朝香宮邸に展示されると、なんだかどれもしっくり来てしまうのだ。まるで昔からここにあるのが必然とでもいうように。作品たちの、訪れる人々たちの家であるかのように。


 美術館といえば。

 何もない壁、かしこまったように並べられた作品たち。それが美術館のあるべき姿なのかもしれない。それでもわたしは、庭園美術館のような、作品たちにとっても我々にとっても心地よい美術館があってもよいと思う。

 

会場・会期

東京都庭園美術館「建物公開2021 艶つやめくアール・デコの色彩」展

2021年4月24日から6月13日まで

 

・執筆者プロフィール・

Kuboleine(くぼれーぬ)

2000年生まれのうたうソプラノ音大生。音楽とアートと演劇がすき。アートがいろんなひとにとって、近しい、親しい存在になればいいなぁと思いつつ、ぽちぽち文章を打っています。推し画家はモネとクリムトと竹久夢二。


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