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  • 執筆者の写真これぽーと

竹中大工道具館:道具から見る木造建築の歩み(東佳子)

石を磨いただけの斧で木を伐り倒していた時代がありました。竹中大工道具館の常設展は石斧から始まります。石斧の展示横にあるタッチパネルに手を触れると、実際に木を切る映像の再生が始まりました。その隣にはレプリカがあります。握りこぶしよりもひとまわり大きい石に木製の柄を付けたものです。触るとすべすべしていて、なにも切れそうにありません。モニターの中では作業服姿の男性が石斧を幹に打ち込んでいます。打撃回数931回、所要時間27分、ついに木が倒れました。

 竹中大工道具館は日本で唯一の、大工道具専門の博物館です。場所は新神戸駅のほど近く、竹中工務店ゆかりの地です。


 建物は地下2階から地上1階までで、常設展示室は地下1〜2階にあります。吹き抜けに屋根つきの太い柱が立っています。実物大の『唐招提寺金堂 組物模型』です。地下2階の隅には小屋のようなものが見えます。ここでは広く大工道具の変遷を扱っています。


 地下1階はこのような構成です。

1.歴史の旅へ(日本の大工道具の変遷。縄文時代から明治まで)

2.棟梁に学ぶ(宮大工の世界。儀式や技法など)

3.道具と手仕事(大工道具の完成形。鑿や鋸など主要な道具のバリエーション、『大工道 

  具の標準編成』、柱立てから棟上げまでの木組みについて)

4.世界を巡る(日本と海外の道具の違い。中国とヨーロッパの道具)

(※番号と括弧内のコメントは著者)


 冒頭で紹介した映像は、1で見ることができます。石斧から大鋸までの展示品はすべてレプリカです。実際に木材を加工する再現映像が添えられています。どう使うのか想像が及ばないほど素朴な道具に、映像が生きた姿を与えてくれます。

 石から鉄へと時代は移りました。石斧は鉄斧へ。そして鑿が生まれ、丸太を打ち割って板にできるようになりました。室町時代には大鋸が導入されました。二人がかりで引く大掛かりなものです。それまでは鑿で真っ直ぐに打ち割れる良材だけが板の材料でしたが、大鋸を使えば節の多い丸太からも板を切り出せます。


 3のエリアでは、平置きのガラスケースに鑿や鉋などが並んでいます。大型の壁面ケースを埋めているのは『大工道具の標準編成』179点です。昭和18年の東京都大田区での調査に基づく、本格的な木造の建物をつくるのに必要な大工道具(標準形式第一形式)です(*1)。素朴な石斧から始まった日本の大工道具は最盛期を迎えました。戦後には新しい構法や電動工具の普及により、手道具としての大工道具の需要は減少に転じます。

 続いて地下2階です。

5.和の伝統美(実物大の茶室スケルトン模型、組子細工や唐紙襖などの建具など)

6.名工の輝き(道具鍛冶とその道具、千代鶴是秀の鍛冶場『九三場』の再現)

7.木を生かす(日本の木材について)


 上から見えていたのは5の茶室でした。大工や左官の仕事を見せるためのスケルトン仕様です。木組みがむき出しでなにも葺いていない屋根、建具は枠だけ。土壁には土がなく網目状の竹の下地が張り巡らされています。中に入ると、虫籠に捕まったような気分です。それを囲む壁面のケースには様々な建具と畳。繊細な組子細工が幾何学的な文様を描いています。


 6は少し様子が違います。これまでは道具を通して木造建築の歴史を概観してきました。けれどこのエリアは、実用品を美的な対象とする工芸のような展示です。壁面には道具鍛冶の写真が並び、暗い色の壁と控えめな照明が刃物が反射する光を引き立てています。日本刀の展示でよく見かける手法です。

「1.歴史の旅へ」のパネルにはこのような一文がありました。


「明治には高い技術をもつ名工が多く誕生した。その一因は、廃刀令により仕事の減った刀鍛冶が道具鍛冶に転向したことにある。」


中央には鍛冶場が再現されています。大鉋の上に掛けられた鉋屑は透けるほどに薄く、精度を誇るようです。

 6の奥にはライブラリー、その先は木工室です。主に木工のワークショップが活発に開催されています。幼児でも参加できる易しいものから大人向けの教室まで様々です。

(※ただし常時開催ではなく、事前申込制のものも多いためイベント詳細は必ずHPで確認のこと)


 1階へ戻ると、ガラス張りのロビーに様々なデザインの木の椅子が並んでいます。ロビーの南は庭園、北は庭園とその奥に六甲山があります。明治42年の地図では、ここは市街地の北端でした。建物は地下を利用して存在感を抑え、樹木の伐採は最低限に留めたそうです。(*2)(*3)

 常設展には館の性質がよく表れます。展示品の多くはレプリカですが、単なる代替品にとどまるものではありません。法隆寺の古材から痕跡を分析して復元した釿、鑿、ヤリガンナは、実際の修復作業で使用されました。作り使う技術が保存されています。

 物が摩耗して消えても、技術を残すことはできます。道具を使う当事者である工匠、企業の想いを受け継ぐ博物館ならではの強みです。

 緑に埋もれた平屋が深い地下空間を隠しているように、テーマに沿って絞り込んだ展示の背後に豊かな蓄積が伺えます。抑制の効いた見事な展示でした。

 

参考資料


1:「大工道具の標準構成」(館内チラシ)、公益財団法人竹中大工道具館、2023


2:「建築について」公益財団法人竹中大工道具館

https://www.dougukan.jp/about_architecture / 閲覧日:2023年2月13日)


3:「神戸市史」(神戸市, 昭12.7-13.2)『第十一圖版 明治四十二年神戸市地圖 』、神戸市編、20コマ目

https://id.ndl.go.jp/digimeta/1117589 / 閲覧日:2023年2月13日)

 

会場・会期

竹中大工道具館 常設展

 

・執筆者プロフィール

東佳子

長崎県出身、兵庫県在住。別府大学文学部史学科卒業、京都芸術大学通信教育部芸術学科アートライティングコース卒業。美術館巡りが趣味の会社員です。


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