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  • 執筆者の写真これぽーと

第7回:レビューの使い方会議(南島興)

 これぽーとを主宰している南島です。来週で、これぽーとを始めてちょうど一年経つことに驚きとともに、なにか企画をしたいなと考えている、今日この頃。みなさんは、いかがお過ごしでしょうか。今週は、レビューの使い方会議の第6回目です。以下、説明に続いて、本文になります。


 突然ですが、前から少し疑問だったことがあります。毎月のように展覧会が開かれて、それに対するレビューがさまざまなメディアで公開されている。けれど、展覧会が終わったあとのレビューや、一度読まれた後のレビューはどこへと行ってしまうのか。書籍であれば、何度も読み直されることや本棚にしまっておいて、その時々で読み返されるということがありますが、展覧会のレビューで、それもネット公開のものは、なかなかそうはなりにくいと思います。どうしても一回の使い切り感が否めません。


 これはもったいないことだなと前から思っていました。本来、レビューは展覧会が終わったあとやその展覧会の存在すらも忘れられたあとにこそ、それがどんな展覧会であったのかを記録した資料として重要な意味を帯びてくるはずだからです。


 こういった問題意識からこれぽーとでは断続的に、南島がこれまで公開されたレビューを僕なりに紹介していくことにしました。題して「レビューの使い方会議」。試しにではありますが、この場でレビューの「使い方」をいろいろ見つけ出していきます。レビューを書いていただいたみなさんのためにも、読んでいただける方々のためにも、主宰者である自分には、それを発見していく責務があると思っています。


 第7回目となる今回は、2020年9月と10月に公開されたミュージアムグッズへの道と奈良県立美術館のレビュー記事をご紹介いたします。

 

ミュージアムグッズをこよなく愛する大澤夏美さんと南島の対談記事になります。この対談のあと、大澤さんは著書『ミュージアムグッズのチカラ』を上梓されまして、いまたいへんな話題を呼んでいます。これまでに二回行われている対談の第一回目は、ミージアムグッズ・ショップの日本への導入の歴史から、注目のグッズ紹介など、ぼくのような初心者にもやさしいお役立ち情報が満載です。それとともにぼくと大澤さんがその後に中心的に語っていくことになるテーマをすでに取り上げられています。すなわち、「買う」という行為によって発揮される人それぞれの「欲望」についてです。美術館といえば、しっかりと作品を見て、その説明を読んで、歴史や背景を理解していく。そんなちゃんとした=理性的な場所としてイメージされることが多いと思います。しかし、それだけではひとは美術館から遠ざかってしまいますし、少なくとも美術館は窮屈な場所として体験されてしまう。ぼくと大澤さんはこうした美術館において暗黙に前提とされている、まじめに見るべきであるという「べき論」に限界を感じています。そうではなく、人々の「したい」を引き出し、うまく利用することで、多くの人が美術館に足を運び、美術に関心をもってくれるはずだと考えています。まだ美術館はうまくの人々の欲望を扱うことができていない。いま読み返してみると、そうした欲望を介して、美術への道を開くことが、ミュージアムグッズの「チカラ」なのである、とそんな風にまとめてみたくなる対談です。

 

さまざまな〈熱さ〉をテーマとしたレビューです。熱い抽象と冷たい抽象という懐かしい区別や60年代の政治の季節の様々な表現が思い浮かびます。ただし、本レビューのなかでもっとも〈熱い〉のは、登場するどの時代の作家よりも、それらの作品を取集したコレクター大橋嘉一だと思います。大橋焼付漆工業所(現・大橋化学工業株式会社)を創設した企業家で科学者でもあった大橋は1950-70年代に現代美術の収集、また自らの寄付により東京藝術大学にて「大橋賞」を設置するなど、コレクターやパトロンとして戦後日本美術を支えた人物です。少し最近の事情を確認すると、昨今ではアートコレクターへの参入障壁を低くすることで、どんな方でもコレクターになれるサービスが生まれてきています。それは歓迎すべきことですが、かつての大橋の活動を見ていると、同じコレクターであっても、そのスタンスは大きく異なるのではないかと思えてきます。これは国立西洋美術館のコレクションの基礎となった川崎造船所の松方幸次郎にも同様ですが、大橋のコレクションはプライベートなものにもかかわらず、そのプライベートのなかに日本社会?というパブリックものの文化的向上に貢献するという意欲が感じられるからです。かつての大コレクターが時代的な必然性から担ってきたプライベートの形をとったパブリック・コレクションは、今日、文字通りのパブリック・コレクションになりました。コレクター個人の〈熱さ〉はいかにして、みんなの〈熱さ〉に火をつけることができるのか。このレビューを読みながら、ぼくはそんなことを考えました。

 

・執筆者プロフィール

南島興


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