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  • 執筆者の写真これぽーと

練馬区立美術館:「35年の35点」と議事録から読み解く練美の「いま」と「これから」(塚本健太)

博物館法において、博物館はその運営の状況に関する情報を積極的に提供するよう努めなければならない(9条2)とされているが、さらに、公立博物館では博物館協議会を置くことができ(20条)、この協議会では博物館の運営に関する様々なことが議論されている。

練馬区立美術館にも運営協議会が置かれている。その要録を読んでみると、練美の良さだけでなく、抱えている問題や今後行われる美術館の改修に向けて、そしてコレクションの形成についてなど、行政マン・館長・学芸員の方たちの思いを直接聞くことができて、とても興味深い。

 

 本稿では、2021年2月14日まで開催されていた展示、「練馬区立美術館開館35周年記念展 35年の35点 コレクションで振り返る練馬区立美術館」をたどりながら、こうした文章から見えてくる練馬区立美術館の「いま」について、そして「これから」の姿について3つのキーワードから探っていきたい。


1、体系的なコレクションの構築(モノ)

今回の展覧会は「練馬区立美術館開館35周年記念展 35年の35点 コレクションで振り返る練馬区立美術館」として、1985年の開館から35年がたった練馬区立美術館のこれまでの軌跡を、毎年1個の展覧会を選んでその出品作から1つを紹介するという形で展示している。

開館の年、1985年の1点として選ばれたのは田崎廣助《武蔵野の早春》(1940年)。田崎は1937年から練馬区にアトリエを構えていたことから、開館後初の個展作家として選ばれたそうだ。翌年1986年の1点は小野木学《風景》(1963-64年)。練馬区内に居住していた小野木は、独学で洋画を学び、版画の分野でも活躍した。


 このように、開館時は当時の区長の方針より、日本の近現代美術の作品、特に練馬区内に居住したりアトリエを持ったりしていた画家たちの作品を中心に購入が進められていった。また、1987年から2009年にかけては「ねりまの美術」が毎年開催され、区内の芸術家たちを紹介する場として美術館が活用され、それに合わせて寄贈や購入が行われていった。こうして次第に増えてきたコレクションを公開する場として1992年からほぼ毎年収蔵作品展が行われているのだ。当初は「練馬区立美術館収蔵作品展」という直球勝負なものだったが、近年は時代ごとに作品を分けて数年間にわたって紹介していく「シリーズ時代と美術」(2013~2016)など、コレクションの深化によって、展示も様々な面から開催されるようになってきた。




 ところで、上に示したのは令和2年度第1回練馬区立美術館運営協議会次第に掲載されている美術館の収蔵状況を示した表であるが、購入の欄を見て気づくことがあるだろう。

 

 そう、平成12(2000)年以降に作品の購入がほとんどないのだ。平成30年度・令和2年度の協議会でも取り上げられている。練馬区立美術館は開館当時に1億円の基金を創設し、その後4億円に積み増ししたものの、それはあくまでも区の基金としてであり、美術館自前の予算で購入することは行われていないようだ。平成30年度の協議会の際に秋元館長は、「収蔵品については、館の姿勢を示す、練馬の美術館らしさを美術館側から伝えていく収集がずっとできていない。基金はあるが予算はついていないので、美術館が主体的に作品を購入していない。どういう作品が練馬に合っているのかということを抜きに、寄贈したい方々のお話をベースにして収集している状態です。」(*1)と述べており、美術館が主体的に行うべき収集が難しい状況であることがうかがえる。くわえて、令和2年の協議会の際には委員からそもそも4億円の基金自体が作品購入のために十分ではないのでは、という意見も出されており、今後のリニューアルに向けて、美術館が主体的に収集を行える環境になるのかどうかが注目される。


2、常設展示室の設置(ハコ)

 さて、練馬区立美術館は開館から35年が経ったことにより、平成27年度あたりから改修工事向けての検討が進められてきた。この検討がまとめられた冊子、『練馬区立美術館再整備基本構想策定検討委員会 提言』内に「施設の現状」として掲載されている平面図には「常設展示室」が存在している。しかし、企画展開催時には常設展示室も企画展の会場となっていることが多く、さらに今回のコレクション展の会場はまさにこの常設展示室で行われているのだが、7550点の収蔵作品の中から35点ほどしか展示ができないという狭さも課題となっている。これを踏まえ、上記の再整備基本構想検討委員会の提言では「本物のアートに出会える美術館」として「収蔵コレクションによる、新たな魅力を発信する」ために「展示室の拡張と機能更新」が必要だと位置づけている。


3、研究の質と人員増強(ヒト)

 ここまでモノ・ハコという2つの要素から練馬区立美術館のコレクションについて見てきた。しかしながら、これらを扱うヒト=学芸員も非常に重要な要素である。平成30年度運営協議会において発言された「(展示を)買ってくることはしない」「館の学芸員が研究していることを紹介する」という言葉にもあるように、常設展にせよ、企画展せよ、練美が練美自身で作り上げていくという姿勢があるからこそ毎年充実したコレクション展が行えており、また企画展も非常に充実したラインナップになっているのだろう。現在勤務している 4名の学芸員で様々な業務を行うのは非常に大変なことであると推察され、学芸員の増強といったことも今後の練馬区立美術館の発展のために必要不可欠である。


 35年という節目にあたる今回の展示はこの美術館のこれまでの蓄積を披露するものであり、これからさらに進化していくための試金石になっていると思う。現在、新型コロナウイルスの影響で再整備基本構想の策定は延期されているが、今後どのように変化していくのか、そして進化していくのかがとても楽しみである。


*1 練馬区「平成30年度第2回練馬区立美術館運営協議会 要録」

3002yoroku.pdf (city.nerima.tokyo.jp) (最終アクセス日:2021年2月13日)

 

会場・会期

練馬区立美術館「練馬区立美術館開館35周年記念展 35年の35点 コレクションで振り返る」

2020.12.12(土)~ 2021.02.14(日)


・執筆者

塚本健太

都立大で政策科学を学びながら、学芸員資格課程を受講中。政策科学は行政が行う政策を理論で支える学問ですが、しばしば数値化できない価値を低く見がちです。美術館などの文化系施設もその一つです。効率化だけでは表すことのできない「場」としての価値を考えていきたいと思います。


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