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青森県立美術館:土壁、男根、そして熱量(橋場佑太郎)

 弘前れんが倉庫美術館が新型コロナウィルス流行による延期により、当初4月の予定が7月にグランドオープンする事となった。2008年には、十和田市現代美術館が開館し、来年には、旧・八戸市美術館が老朽化による機能拡充整備を経て、八戸市新美術館としてリニューアルオープンする。この建設ラッシュにより県内の各地域が美術に対してより一層の盛り上がりを見せる中で、今回紹介する青森県立美術館は、2006年に設計され、ラッシュの火付け役であったのかもしれない。


 本美術館は、「青森県の豊かな芸術風土や隣接する三内丸山遺跡に埋蔵された縄文のエネルギーを芸術創造の源泉として捉えながら、強烈な個性を有する青森県のアーティストたちの原風景を探求し、青森県の芸術風土を世界に向けて発信します。」を、コンセプトの一つとして掲げ、県内の作家を積極的に紹介する姿勢が伺える。


 さて、そんな同館では、工藤哲巳の「社会評論の模型」シリーズを中心に写真家、澤田教一によるベトナム戦争の写真や今和次郎・純三兄弟による関東大震災後の公共建築や劇場に関する仕事、同時開催の企画展示「生誕110周年記念 阿部合成展 修羅をこえて~「愛」の画家」(2020年11月28日(土)-2021年1月31日(日))にちなんだ阿部合成の弟子である小坂圭二や成田亨といった同郷の作家を紹介した常設展が開かれている。


 テーマは、「危機の中の芸術家たち」。新型コロナウイルス感染症の蔓延や気候変動、Black Lives Matter運動などの人の生存や社会における自由の危機を考えさせられた2020年の世相を過去の資料から捉え返す内容となっている。


 「危機の中の芸術家たち」というタイトルは、工藤哲巳の「危機の中の芸術家の肖像」シリーズを意識していると考えられる。工藤は、主に50年から60年代初頭にかけて、「反芸術」の旗手として活動を展開した作家である。このテーマ展では、最後に展開される二つの部屋で工藤の作品群が紹介されており、その二部屋をつなぐ通路には「脱皮の記念碑」(1969)が展示されている。この石像は、千葉県房総の館山に掘られた巨大なレリーフの模型となっており、初期の活動から「インポ哲学」を提唱し、男根を作品の主題として扱ってきた工藤がサナギのイメージと重ねた作品となっている。「インポ」はドイツ語のインポテンツ(Impotenz 性的不能)の略語であり、現在ではED(勃起不全)という表現で使われやすい。この勃起しない男根のイメージ作品でサナギのイメージと重ねた視点について、工藤自身は「サナギは変態の過程をあらわしています。幼虫がサナギになり、やがてマユを食い破って、チョウになる。この過程が現代とそっくりだと思うんです。」(『あなたの肖像 工藤哲巳回顧展』より)と述べている。


 たしかに、この模型が土壁の前に突き出している展示の様には、工藤が現代の状況と重ねる、幼虫が自らマユを破って、成虫となるダイナミズムを生み出す、得体の知れないエネルギーを感じとることができるだろう。とはいえ、それは何も、工藤作品からだけ発せられるものではない。この遺跡のような建物に収まる資料は皆“エネルギー”を強く意識させるのだ。とすると、その源は、作品それぞれというよりも、それを格納する美術館の立地と建築に求めるべきであろう。


 青森県立美術館は、青森駅から離れた三内丸山遺跡の近くに存在する白い建物が目印となっており、筆者が訪れたときは豪雪であったため、雪と建物の区別があまり付かない出で立ちであった。そのためか地下に集中した展示室や土壁の展示室といった導線が地中に潜る感覚にさせる。そして、地下には中学校美術の教科書(開隆堂)の表紙にも掲載され、同館のトレードマークともなっている奈良美智による立体作品、《あおもり犬》(2006)が鎮座している。本作は美術館の設立と共に建立され、発掘された遺跡の様な出で立ちをしており、ゆったりとした表情の反面、何処か力強さも感じさせる。この犬や土壁は、近くの三内丸山遺跡との関係を強く意識させる構成となっており、これも建築家、青木淳が意図的に設計した演出ではないのかと想像した。


 常設展の冒頭で展示された今和次郎・純三の資料からもその一面を感じさせる。展示では関東大震災後に展開された今和次郎のバラック装飾社を中心とした活動と純三による舞台製作背景画の活動の紹介がされ、二人の「装飾」から生活を捉え返す仕事が次の版画家、棟方志功の部屋につながる。ここでは版画の他に書籍の挿絵や装丁の仕事を拝見することができ、棟方が師として仰いだ柳宗悦の日常美との関係を想起させた。実際、柳は今和次郎の一つ下の年齢である。こうした考現学と民芸の運動から鑑賞者は、同時代の運動ついて思いを馳せる事ができるだろう。


 ただし、この常設展と企画展の入り混じる複雑な動線は、鑑賞者を迷わせかねない。この美術館の常設展では「あおもり犬」を制作した奈良美智と棟方志功の展示室が常時公開されており、それと共に併設された空間で開催されるテーマ展によって構成されている。展示の順路では奈良と棟方の展示を挟んだ形でテーマ展示が行われているため、別の展示室に来た様な印象にさせてしまう。特に今和次郎の展示の後に訪れる棟方志功の展示室では、「危機」との関係があまり読み取れるものではなかった。


 前述した弘前れんが倉庫美術館、十和田市現代美術館は共に現代美術館として資料展示よりも体験型の展示が重視されている。その中で、資料と体験型の作品を往復しながら見せる事ができる数少ない美術館として、より多くの競演が実現できるのではないのかと考えさせられた。


会場・会期

青森県立美術館「コレクション展 2020-4:危機の中の芸術家たち」

11月28日から2021年2月23日まで

・執筆者

橋場佑太郎

1995年川崎生まれ。千葉大学大学院修了。大学院では民芸を研究。