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  • 執筆者の写真これぽーと

川崎市岡本太郎美術館:かわいくポップな現代美術(藤澤まりの)

 岡本太郎美術館のレビューを書こうと決めたものの、私は正直不安だった。

私に岡本太郎がわかるだろうか、明らかに「上手い」「きれいな」絵ならそのすごさが分かるけど、現代美術ってよくわからないし、岡本太郎は毒が強そうだし、なんかとっつきに

くいなあ…。


 でも、それはどうも杞憂だったみたい。そう、訪れてみてわかった。だって、岡本太郎はとてもかわいくてポップだった。


 まず、かわいいもの。

 彼のつくるそれは明るい色使いや形で家に置きたくなるものばかり。岡本太郎が絵画や彫刻だけでなく家具。インテリアも作成していることは知らなかった。特に気に入ったのは「紐の椅子」たちだ。紐の色の組み合わせや結び方がひとつひとつ違い、当然座り心地もすべて違う。見た目がかわいいのももちろんだが、この子がオンリーワンだから愛しいという意味でのかわいさもあろう。

 スケッチもかわいい。「太陽の塔」内部イメージのスケッチには初期の生物から現在の人間までが描かれているのだが、全部かわいい。アメーバらしき生き物のとぼけた表情、両生類の眠たげな目、人間や猿の生き生きとした動きなど、そのままグッズ化してほしい。


 次に、ポップなもの。

 「太陽の塔」関連グッズが展示されているのだけど、作品のアレンジの種類が自由で豊富に見えた。「コップのフチ子」とのコラボ商品やぬいぐるみ・スマートフォンケース・マスキングテープなど、時代に合わせてどんどん新商品を作っているのが分かる。

 このポップさはどこから来たものなのか。「顔のグラス」のキャプションや、企画展示室につながる通路に書かれている文章に答えが書かれていた。「芸術は一部のマニアや金持ちのものではなく、民衆のもの」と考え、芸術を特別視する社会を変革しようとした彼は、マスメディアへの出演や大量生産物の制作などを積極的に喜んで行っていたそうだ。

 大衆にウケるグッズ展開を彼も歓迎しているんだろうな、と思いを馳せた。


 話は逸れるが、私は画家のサインを見るのが好きである。

 イニシャルで書く人、長い名前なのになぜかフルネームで書く人、びっくりするくらい字が上手い人、サインの文字までデザインしているのかというほどおしゃれな書体で書く人、探さないと見つからないくらい小さく書く人など、性格が出ているような気がするし、作品をより味わい深いものにしていることもある。


 岡本太郎のサインには、名字だけ・名前だけ・フルネームの三種類があった。ブロック体で名字だけまたは名前だけを書くときは一文字一文字がはっきりしている。特にOkamotoのkはまさに彼の描く人間のような形で、これまたかわいい。しかしフルネームで書く際の名字はかなり省略した形で書かれていて、Ok---t. に見える。省略した形で書くってことはサインへのこだわりは薄いのか?いやむしろその逆で、サインにまでこだわる人でフルネームのときと名字/名前だけのときで書き方を変えているのか?名字だけのときには頭のOkにくるっと回転した線があっておしゃれなのに、フルネームの名字にはその線がないんだから、やっぱりわざわざ変えてるのかも。もしかして自分の名字より名前の方が好きだったから名字はさらっと書いたのかな…等々。サインは彼の価値観、彼が何を重要としてきたかを想像するヒントの一つかもしれない。



 迷路のような美術館には順路がなく、壁にも文字が書かれており、探検するような気持ちで楽しめる美術館である。岡本太郎美術館は、私の中にあった現代美術は少し近寄りがたいというイメージを払拭してくれた。彼によれば芸術は大衆のものであるから、私も自分の中で勝手に美術の敷居を上げることなく、「かわいいなあ」と、俗な視線からでも楽しんでいきたいものである。

 

会場・会期

川崎市岡本太郎美術館「生誕110周年 ベラボーな岡本太郎」展

2021年10月15日から2022年1月16日まで

 

・執筆者プロフィール

藤澤まりの

都立大で社会人類学を専攻し、同時に学芸員養成課程・教職課程を履修しています。

隙あらばテレビを見ているテレビっ子である一方、学芸員養成課程で企画展にマスメディアが入ることによるデメリットを学んで興味を持ち始めました。

地方に住んでいたこともあり大規模な企画展を見ることが多かったのですが、これぽーとをきっかけに多くの常設展を見に行きたいと思います。


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