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岡山市立オリエント美術館:都市文明のはじまりが物語るものとは。日本で唯一、古代オリエントを研究する公立美術館へ。(橘春花)

  • 執筆者の写真: これぽーと
    これぽーと
  • 23 分前
  • 読了時間: 4分

岡山市立オリエント美術館

2026年8月30日まで 

橘春花

1994年、岡山県生まれ。広告代理店と編集プロダクション勤務を経て、編集・ライターとして独立。行政や美術館などの広報も経験しながら、まちやその土地に根付く芸術・文化の情報発信を軸に、WEBや紙媒体での編集・取材・執筆を行う。


 展示室に入ってすぐ、中央ホールの吹き抜けを見上げると、まるでいくつもの箱がランダムに積み重なったような建築に圧倒される。天窓の隙間からは自然光が差し込み、シリアの彫刻や5世紀ごろの虎のモザイクなどの美術品を照らし出す。ここは、国内唯一の古代オリエントを専門とする「岡山市立オリエント美術館」の常設展示室。考古美術資料を約4800点有し、展示品を随時入れ変えながら、都市文明のはじまりを伝えている。


1階と2階の一部が常設展示室で、回廊状につながっている。私が鑑賞したのは「館蔵品展 シティ・ライフのはじまり、オリエント」。本展は「都市生活のはじまり」からスタートするが、その前に改めて「都市」の定義を確認しておきたい。


 本展の解説によれば「都市とは、人種や信条、社会的身分、経済的基盤などの異なる人々が狭い面積に集住する空間」であり、その起源は約5000年前のオリエントにまで遡る。また、住民の大半は食糧生産に従事しない人で構成される特徴があるため、一次産業の従事者が少ない現代の日本の場合、社会全体が「都市」といえるそうだ。本展では、現代では当たり前とされている、都市におけるあらゆる物事のはじまりと、古代の人々の試行錯誤の痕跡を扱っている。


 気になったのは、ここでは都市文明の「進化」を紐解くのではなく、「はじまり」にスポットライトを当てている点である。今につながる物事の誕生を切り取ることで、本展から鑑賞者が何を感じるのかを知りたいと思った。


 まず第1章「都市生活のはじまり」では、化粧やアクセサリー、衣服、パン、靴のはじまりなどを、資料とともに解説。「化粧のはじまり」には、《角形瓶》というイラン北部で発見された紀元前5~4世紀の瓶が展示されていた。オリエントで人気のメイクだったというアイライナーだ。黒色地で高さ7.8cmの長細いガラス瓶に白色の羽状の模様を施し、黄色、白色、橙色ガラスを口縁部に巻き付けてある。内部にはアイラインに使われていた黒色顔料が残存しているそうだ。アイメイク自体はおそらく実用性から生まれたものだが、瓶のデザイン性の高さには当時の人々の美意識が現れていた。


 また、都市の出現により、食糧の在庫管理や税の徴収など、大量の数理データを管理する必要に迫られ、人々は文字を生み出した。最初の文字は約5300年前にシュメール人が用いた絵文字だと伝わり、やがてそれがくさび形文字へと進化する。エジプトでは約5000年前にヒエログリフが誕生した。本展では、二等辺三角形の集まりのような、くさび形文字で書かれたハンムラビ法典碑の複製を見ることができる。


 そこには「目には目を 歯には歯を」の一節が書かれているらしかった。もちろん私には読めるはずもない。人類が文字を生み出したことは都市文明の偉業といえるが、一度は読み方を忘れ去られたあとに研究者が解読したという歴史的な事実にも驚いた。


 つづく、第2章「専門技術のはじまり」では、ろくろや金属利用、ガラスのはじまりなどを伝える。第3章では、「都市が生み出す喜び」に焦点を当てた。


 それぞれの展示を見ると、都市文明の誕生をきっかけに、今でも使われているたくさんの道具が生まれたことがわかる。それらは現代のものよりデザインの自由度が高く、道具でありながら芸術品にも見える点が興味深い。オリエントでは「狭い面積に人口が集中する都市は、消費の場」であるという記述があったが、ただ道具として消費するだけでなく、生活や経済と芸術が今よりもっと混ざり合い、お互いに関係しあっていたようにも感じた。現代にもそれらが残っているということは、大切に使われていた証だろう。


 また、1階展示室を最後まで見ると、すべての解説に「○○のはじまり」とタイトルが掲げられていた。あえて「はじまり」を際立たせることにより、オリエントが人類の歴史をリードしてきた価値を力強く伝えるキュレーションになっていた。


 何もないところから生み出した誕生までの試行錯誤、それが生まれる前と後の世界の変容ぶり、5000年前から存在していたことへの驚き、未来への希望。ひとつひとつの展示品に「はじまり」が掛け合わさることで、現代を作り上げたともいえる都市文明誕生の価値を見せつけられた気がした。


 ただ、本展では語られていないこともある。5000年を経て、現代に至るまでの過程である。誕生したものもあれば、失われたものも大いにあるはずだ。コレクションに感じた生活に溶け込む「芸術性」にいたっては、オリエントに比べれば現代の生活用品にはあまり感じられることはない。消費社会の発展により、便利さやコストの低さ、大量生産の価値が重要視された結果であるといえる。都市文明の誕生は、進化なのか退化なのか。その両面に目を向けたいと思いながら、美術館をあとにした。

 
 
 

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