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これぽーと的よかった展覧会2025

  • 執筆者の写真: これぽーと
    これぽーと
  • 14 分前
  • 読了時間: 10分

2025年もこれぽーとを読んでいただきありがとうございました。今年もこれぽーと執筆陣が選ぶ2025年のよかった展覧会を公開します。

伊澤文彦 

50年代後半〜60年代の「女性作家」の抽象表現を展示する企画。昨今、今まで周縁化されてきた美術の歴史化がなされているが、単なる歴史の読み直し的な展覧会ではない。同時代の批評家の反応や女性作家のメディア消費にも言及しつつ作品をしっかりと見せていく展示で、時代の体温を感じることができるものだった。

 ●「非常の常」(国立国際美術館)

常態化した非常事態を生きる、現在の私たちのための展覧会だと言える。現代美術は複雑な文脈を内包しながら輝くもの。様々なレベルで襲いくる不安や焦燥感を映す時代の鏡でもある。何気ない日常を生きる我々の側に存在する非常事態は、見知らぬ場所への想像力によってのみ認知可能であることを思い出させてくれる。 

二人展は数あれど、ドキュメンタリーになりそうなレベルの交流はそうそうないだろう。まさしく「ここで会ったが百年目」だ。 藤田と国吉の交点が随所に示される展示の中では、国吉の作品によく出てくるモチーフの「仮面」が藤田の作風に影響を受けたのではないかと考えられる箇所もあり、興味深かった。 また、二人の交流を示す決定的な物的証拠として、席画として描かれた色紙が展示されていた。紐育日本人美術協会主催の藤田の歓迎会で作られたもので、国吉、藤田、そして近藤赤彦の書き込みが認められる。今回の展覧会の調査内で存在が確認されたというが、こういう物的証拠があるのはドラマとして強い。知らない間に二人のストーリーに引き込まれてしまった。


アンチ・アクション展(東京国立近代美術館)
アンチ・アクション展(東京国立近代美術館)

菅原大貴 

●「おかえり、ヨコハマ」(横浜美術館)

3年におよぶ改修を経て開催された、リニューアルオープン記念展。開港からつづく横浜の重層的な記憶と、いまを生きるわたしたちの身体・意志が出会う(コンタクトする)、ひらかれた(あるいはひらきかけの)「みなと」としての展覧会。まちと、そこに暮らす(暮らしてきた)ひとびと、そしてそこにある美術館の実存を徹底的に掘り下げる、実直な展示だと思いました。チケットを持たずともアクセスできる「じゆうエリア」は、美術館を特別な場所から、ある種の公共圏へと解(開)放しています。ひとの営みと地続きの場としてミュージアムを捉えなおすその姿勢は、公立美術館のひとつの到達点であり、原点といえるのではないでしょうか。 

石橋財団が誇る近代美術のコレクションと現代作家とのコラボレーション、「ジャム・セッション」シリーズ。今回は山城知佳子・志賀理江子という、列島の南端・北端から強烈な記憶を掘り起こす2名の作家が招聘されました。映像は長いし、テキストは多いしで、ちゃんと観ようとするとけっこう疲れます。でも、目が離せない、というか目を離してはいけない、そらしてはいけない、いや、そらすわけにはいかない。そういう心地にさせる、きわめて切実な展示です。わたしはひとに「ここに行くべきだ」とか「これをみるべきだ」などといわれるのがあまり好きではないのですが、これはまちがいなく「観るべき」展覧会のひとつだと思います。

日本科学未来館 常設展(日本科学未来館)

科学を、なにか「答えを教えてくれるもの」としてではなく、わたしたちがまだ知ることのできない不確かな世界、不確かな未来とのフレンドリーな接触面として捉え返すこと。すべてを可視化しコントロールしようとするのではなく、不可解さを不可解なままに受けいれること。到達できなさを肯定し、未知に対するすこやかな畏怖を取りもどす方法としてのサイエンス・コミュニケーション。そこには、万博的な明るい未来像とはまた違う、不透明だからこそいとおしい、「わたしたち自身の未来」との出会いかたが展示されています。


塚本健太

ヤマザキマザック美術館 常設展(ヤマザキマザック美術館)

ロココ美術を中心としたコレクション、ガレのガラス作品など、ヤマザキマザック創業者の山崎氏のコレクター・アイを感じることができます。また、音声ガイド端末をすべての来館者の方に貸し出しをしていることや、電動虫眼鏡で拡大できる展示など、展示の方法もこだわりが感じられる美術館です。

柳瀬荘(黄林閣)

埼玉県新座市の山間にひっそりと佇む、東京国立博物館の一施設。松永安左エ門氏(耳庵)の旧別荘で、1844年建築の重要文化財の黄林閣を中心とした建築群です。かまどの火焚きを定期的に行っていたり、季節ごとのイベントを地元向けに行っていたり(訪れた時には、じゃがいもの蒸しができるイベントがお知らせされてました。)と、上野の東博とは違う切り口で【暮らしを保存している】とても素敵な場所でした。

EXPLOSION & EXPANSION 爆発と拡張多摩美術大学 BLUE CUBE

多摩美術大学の学園祭に合わせて開催された展覧会です。大学横に立地する食品卸売スーパー跡をどのように活用していくかを模索する一環として、休館中の多摩美術大学美術館の学芸員と選抜された学生たちが協働して作品の展示を作り上げていたものです。今後のこの施設の方向性に大きな期待を寄せています。


Naomi

Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness(埼玉県立近代美術館) 昨年の「ベスト展覧会3」で、千葉市美での個展をご紹介した際、本展の開催にもふれていましたが、無事伺うことができました。 千葉市美での展示をふまえ、かつ、黒川紀章さんの建築と展示室の空間を巧みに使っていたことや、新たな作品の表現を試みていた点も印象に残りました。

京都を拠点に活躍した黒田辰秋の代表作や仕事を紹介する企画展で、巡回せず、京都のみの開催でした。長らく黒田辰秋の作品群のファンなもので、開催をとても楽しみにしていました。作品が数多く置かれている河井寛次郎記念館や、現在でも黒田の作品を使用している祇園の鍵善義房さんなど、ゆかりの地を巡りながら展覧会を楽しめたことも良かったです。 また、とても細かな話で恐縮ですが、展示の構成はもちろんのこと、展示室の壁や壁紙などの造作から、バナーやキャプション、図録、チラシ、チケットなどの細部に至るまで、展覧会に関する一連のアートディレクションが素晴らしかったのも記憶に残っています。

念願、かつ初めて足を運ぶことができた芸術祭でした。私自身、海外で生活した経験がなく、国際ニュースやアートワールドの動向に日々アンテナを高くしているつもりですが、ステートメントをはじめ、芸術監督のフール・アル・カシミさんの発言や、世界各国の多種多様な表現を目の当たりにし、非常に考えさせられました。またパフォーミングアーツやラーニングプログラムが充実していたこと、期間限定ショップ「TEMPORA」のユニークさも良かったです。

毎年のことながら、他にも大型展からギャラリーでの展示まで、2025年も多種多様な展覧会がたくさんあり、印象深い1年でした。 今年ならでは、と言えば、まずは戦後80年にちなんで開催された多数の企画展、でしょうか。できるだけ足を運びましたが、やはり「記録をひらく 記憶をつむぐ」(東京国立近代美術館)が、いろんな意味で注目を浴びたことはとても良かったのでは、と。また、現在、板橋区立美術館で開催中の「戦後80年 戦争と子どもたち」展(~26/1/12)もできれば伺いたいと思っています。 また、藤本壮介さんの大規模展(森美術館)や、大阪関西万博内の建築物を手掛けた若手建築家の皆さんの展覧会「新しい建築の当事者たち」(TOTOギャラリー間)内藤廣さんの展覧会(渋谷ストリーム/紀尾井清堂)など、建築や建築家にまつわる展覧会がどこも賑わっていた印象ですし、「ひろしま国際建築祭2025」「京都モダン建築祭」も盛り上がっていました。 一方、企画の切り口がユニークだと思った「ピクチャレスク陶芸 アートを楽しむやきもの ―「民藝」から現代まで」(パナソニック汐留美術館)や、展覧会ファシリテータを事前に募集し、ワークショップも多数行っていた「つくるよろこび 生きるためのDIY」(東京都美術館)、日本古来の食、特にお米をテーマにしたリサーチベースの企画展「Life is beautiful : 衣・食植・住 by eatrip」(GYRE GALLERY)、巨大な作品群とその精神世界に圧倒された「ヒルマ・アフ・クリント展」(東京国立近代美術館)も記憶に残りました。 最後に、東京展の会期が始まったばかりの「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」展(東京国立近代美術館)は、企画のベースとなっている中嶋泉さんの書籍やMOMATコレクションと合わせて、多くの方にじっくりご覧いただきたいな、と思っています。


国際芸術祭あいち2025
国際芸術祭あいち2025

ワタナベ

●「おかえり、ヨコハマ」(横浜美術館)

そもそも「ベスト展覧会」とはいったいどういった基準で判断されるべきだろうか。なにをもって「ベスト」とするかは難しいが、今回挙げた三つの展覧会は、コレクションの可能性と鑑賞者の目を信じたキュレーションであったという点で「これぽーと的ベスト」であると感じた。スペイン美術をコレクションの核としている長崎県美術館は、収蔵するゴヤの《戦争の惨禍》を中心として展覧会を構成。被爆地長崎の特殊性を踏まえながらも、戦争の持つ普遍性を強調するキュレーションが印象的であった。コレクションを活かして横浜という土地の歴史を辿った横浜美術館のリニューアルオープン記念展は、「多様性」をテーマとしていたが、それを表現するに足るコレクションの厚みは特筆に値する。出品作品のほとんどが自館と横浜市内の施設の収蔵品であった横浜美術館の展示とは対照的に全国各地の美術館から多くの優品を集め、国内のコレクションの豊かさを見せてくれたのが鳥取県立美術館の展覧会だった。「リアル」とはなにかを問う展覧会だが、写実的な作品に偏っていたわけではなく、むしろ後半はコンセプチャルな現代美術を積極的に紹介していた。話題を呼んだ《ブリロ・ボックス》の展示もあり、コレクション形成に対する疑問に真っ向から応答するキュレーションがなされていたように思う。いずれも自館のコレクションをひろく開いていくように、よく練られた展覧会であった。


・執筆者プロフィール

伊澤文彦

1993 年、長野県生まれ。 横浜国立大学大学院都市イノベーション学府建築都市文化専攻博士前期課程修了。 現在、福島県立美術館学芸員。 主な論文に「佐藤慶次郎のインターメディア的実践について―大阪万博前後の創作活動における作品の発展とその解釈―」『下関市立美術館研究紀要第17号』(2023 年) など。「音が音楽になるとき 視覚体験としての音」で第11回柴田南雄音楽評論賞奨励賞受賞。


菅原大貴 

2000年千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2025年、展覧会評などの執筆を開始。公式HP


塚本健太

学部生時代に学芸員資格を取得。現在は、民間企業に勤務しながら、美術館巡りを細々と続けている。アーカイブの観点から鉄道保存古民家活用にも取り組んでおり、地域にどのように文化財を開いていくか、模索中。


Naomi

アートライター、記者、編集者。服作りを学び、会社員として採用PR、広報、Webメディアのディレクター職などを経て、2020年から都内を拠点にフリーランスのライターとして活動。文化芸術やデザイン、ファッションなどの領域を得意とする。公式HP


ワタナベ

アシスタントキュレーター。全国各地の展覧会を巡っています。最近は九州に出没することが多いです。

 
 
 

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