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  • 執筆者の写真これぽーと

国立西洋美術館:リニューアルオープン最速レビュー(南島興)

 昨日、国立西洋美術館がリニューアルオープンした。リニューアル以前以後の変化で分かりやすいのはオーギュスト・ロダンの彫刻が設置されていた前庭をル・コルビジュエの設計当時のものに近づけたこと、また同じくロダン作品が展示されており、以前は常設室の一部であった19世紀ホールを無料開放とした2点であろう。その詳細については各メディアの記事でも確認できるので、そちらに譲りたい。今回はリニューアルオープンした最初の常設展のなかで、私がとくに着目した点について書き記していきたいと思う。

 まずは19世紀ホールから階段をあがり、最初に見える14-16世紀の作品コーナーにある「Collection in FOCUS」である(以後、数か所に点在している)。リニューアルオープン以後に取り入れられたこの企画は、当館のコレクションの作品やそれにかかわる美術館の歴史を重点的に掘り下げて解説をするもののようだ。一番最初のフォーカスは2代目の館長であった山田智三郎の活動に当たっている。もともと、当館のコレクションは川崎造船所の松方幸次郎のコレクションも母体にして成立しているが、それらは基本的には近代のフランス美術を中心にしたものであった。しかし、山田の意志によって、コレクションにする対象の幅を中世から近代にかけてヨーロッパ各国の美術品に広げることになった。つまり、今日の当館の常設展のラインナップを揃える、重大な決断は山田によってなされたことが明らかにされているのだ。これまで西洋美術館と言えば、第二次世界大戦後に敵国人財産としてフランス政府管理下におかれていたものが日仏友好のため部分的に寄贈返還された松方コレクションから構成されており、それが今日まで伝え残された形が常設展の姿であり、そのなかにある山田の決定的ともいえる役割についてはほとんど知られていなかったと思う。リニューアルオープン後の「Collection in FOCUS」にて山田の活動が取り上げられることで、この美術館のコレクションが多様な主体によって歴史的に形成されてきたことが理解できるのだ。なお、版画素描展示室では新収蔵品が展示されているが、現在では約4500点に及ぶという版画収集へと至ったのも山田の決断とつづいてアルブレヒト・デューラー研究の第一者であった前川誠郎が館長に就任したことによることが大きい。

 

 こうした西洋美術館のコレクションの成り立ちを振り返るとともに紹介するという意図はほかにも随所に示されていた。そもそも、前庭を設計当時のものに近づけるという作業のなかに美術館建築のディテールを洗い出し、再現するという振り返りのニュアンスがあるわけだが、コレクションに関していえば、個人名を冠されたコレクションの展示がされていたのが印象的だ。具体的にはゴシックを中心とした彩色写本レリーフの内藤コレクション、指輪の橋本コレクションである。どちらも2000年代に入ってから、当館に寄贈されたものだ。その思いは、内藤の場合は日本の美術館のコレクションに大きく欠落している中世美術を埋めるため、橋本の場合は「文化的に意味がある集合体を新しく創造すること」、そして「コレクションは公共美術館に寄贈することで完成する」という考えに基づいている。また常設展示室内で企画された「調和にむかって:ル・コルビジュエ芸術の第二次マシン・エイジ」展も大成建設株式会社からの寄託作品を中心に構成されている。つまり、これらの展示からも、当館は松方コレクションからは始まってはいるものの、近年までいたる様々な確固たる意志をもった個人コレクターの蒐集品によって豊かなコレクションが形成されてきたことが分かるのだ。翻って、今日、アートマーケットが再び画期を迎えているという向きもあるなかで、個人のコレクターが果たしうる歴史的な役割の大きさについて、このコレクション形成史を振り返る中で実感されたことは言い添えておこう。かつてコレクターは美術のいまではなく、未来を担っていたのだ。


 言われてみれば、当たり前だが、作品が年を取るのと同じように、美術館は年を取る。取れば、取るほど関わる人の数も増えていく。それに応じて、新しいコレクション収集の方針や新しいコレクターとの出会いが生まれてくる。山田や内藤、橋本のように。今回のリニューアルオープン後の常設展はそうした歴史的な背景が少し明かにされることで、また一歩美術館、あるいは美術作品のコレクションとは何か?という正体に近づけるものであった。6月4日からはリニューアルオープン記念として「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」が開催される。そのときにまた訪れたい。

 

会場・会期

国立西洋美術館

2022年4月9日~

2022年4月9日〜9月19日

2022年4月9日~5月22日

 

・執筆者プロフィール

南島興




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